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「納得できるか」「納得しないといけないと思います」センバツ選出《不可解選考》問題から2年…聖隷クリストファー主将が振り返る“悪夢の瞬間” 

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清水岳志

清水岳志Takeshi Shimizu

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posted2024/03/26 06:00

「納得できるか」「納得しないといけないと思います」センバツ選出《不可解選考》問題から2年…聖隷クリストファー主将が振り返る“悪夢の瞬間”<Number Web> photograph by KYODO

2022年、東海大会で準優勝しながら春のセンバツ選考で落選し、上村敏正監督のもとに集まる聖隷クリストファーの選手たち

 具体的に言葉で言われたわけではないが、本心を出していいんだぞ、そう促された気がしたという。

 ただ、そこでやり取りは終わった。

 それ以上、お互いの感情をぶつけ合ったら、興奮が収まらなくなる。高校生の心では抱えきれない状況になるかもしれない。

「気を遣ってそれ以上、先生は聞かれなかったと思います。先生が配慮してくださったと」

現実を受け止められない…経験したことのない感覚

 弓達は落選の報から数時間は、それまで経験したことのない初めての感覚だったという。現実を受け止められない、とはしばしば、表現としては聞くが、わが身に降りかかることはそうそう、ない。でも、聖隷クリストファーには現実に起きている。

「悲しみを超えてました。感情の表現、泣くという行為を忘れていた。何が起こったかわからないから、何もできないっていう……」

 ただ、弓達はこの夜の自分を褒めたいという。

「2、3人、泣いてる選手はいました。でも、自分は感情を抑えられた。ふさぎ込んだりしたら翌日以降にも響くし、逆に怒りを爆発させたらみんなも戸惑うので。それは先生がふだんから強い忍耐力を養うように指導してくださったからです」

 その夜、両親とは「何を言ってもしゃあないと思うけど、とりあえず頑張りなさい」という程度の会話をした。気を遣われるのもつらい。さらりとしていて、助けられた。

 中学時代のシニアの監督には自分から報告の電話をした。「残念やったけど夏もあるわけやからしっかり頑張れ」と言ってもらった。

 高校の先輩、地元の友達からは電話、メール、ラインなど50件以上の連絡があった。全員に「ありがとう」と返した。

 それでも2月に入って練習を続けた。退部する選手もいなかった。でも、仲間を鼓舞する言葉は言いづらかったという。

「いつもは、そんなんじゃ通用しないぞ、とか言うんですが。自分もやっぱり乗らないし。他の選手もなんのためにやってきたのか、っていう気持ちが消えていないわけですから」

 3月、練習試合が解禁されて、何試合かこなした。そして、目を覚まさせられる出来事はライバルとの公式戦だった。春季、地区大会の初戦で常葉大菊川にコールド負けしてしまうのだ。

「モチベーションも落ちていたし、もやもやしながら大会に入ったのも確か。でも、恥ずかしいというか、選ばれなくて当然と言われても仕方ない敗戦でした。もう、見返そう、やってやろうと思った。ターニングポイントになりました」

【次ページ】 最後の夏は「県大会ベスト4」

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