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ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
DeNA戦力外→アメリカ最高峰の独立リーグで打率3割超え&42盗塁、乙坂智30歳が振り返る「“MLBのショーケース”で起きていたこと」「筒香嘉智との再会」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byTomo Otosaka
posted2024/02/26 11:01
2023年、アメリカ独立リーグで最高峰と名高いアトランティックリーグで好成績を収めた乙坂。一体どんなシーズンを過ごしたのか
熱湯あちあち打法
そう言うと乙坂は苦笑した。好きで選んだ道だ。簡単に心を折られるわけにはいかない。来る日も来る日も試合は続いたが、乙坂はずるずると成績を落とすことなく踏み止まった。2022年に海外へ出てから新たな武器となった“足”で相手チームをかき回し、またバッティングは毎日の研鑽で速球にもコンタクトできるようになった。バットもNPB時代から使っていたしなりの出るモデルをやめ、強くインパクトできる堅い木の素材のものにした。とにかく大事なのは、始動を早くし、先に反応し、ボールを長く見ること。名付けて“熱湯あちあち打法”である。
「熱いモノに触れると思わず手を引っ込めちゃうじゃないですか。イメージとしてはあれですよ」
乙坂はそう言うと笑った。脊髄反射のごとく感覚的な部分で相手ピッチャーに反応するのだ。
「日本じゃ考えられないほどいろんな間合いのピッチャーがいるんで、自分がしたいバッティングを先にイメージしちゃうと、ひとりよがりのスイングになってしまうんです。だから人間関係もそうですけど、相手(ピッチャー)に合わせることが大事なんじゃないかって」
重視した「調和」
一方的な“攻め”のマインドではなく、相手と“調和”して初めて最大の効果を生むことができると乙坂は感じていた。
「『空間を調和する』とでも言うんですかね。ひとりよがりになると、この空間がプツンって切れて、いい打球が飛ばない。逆に保つことができれば、強い打球が行く。極端なことを言えば、打席に入ってから重心やヘッドの位置、手がどうのと考えてしまうのも、ひとりよがり。じゃなくて、練習の段階でそれはもう全部解決しておく。そして感性だけを研ぎ澄まして打席に入ることが大事なんだって」
筒香先輩との再会
疲弊をしながらも粘り強く過ごしていたシーズン中、思わぬ再会が乙坂に刺激を与えた。それは8月に同リーグのスタテンアイランド・フェリーホークスに加入した筒香嘉智の存在だ。横浜高校の2学年上の先輩であり、DeNAでは8年間ともにプレーし、公私にわたって世話になってきた掛けがいのない人物。時を経て、ともにMLBを目指し、米独立リーグで戦う日が来るとは夢にも思わなかった。