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笑顔のワケは“賞金6億円”だけじゃない?…松山英樹「苦悩の763日」マスターズ優勝よりブランクが長く感じた理由〈30代初優勝〉
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byZUMA Press/AFLO
posted2024/02/21 11:02
「ジェネシス招待」で2022年1月以来となる米ツアー通算9勝目を挙げた松山英樹。2月25日に32歳になる
ただ、ある種の喪失感に日々苛立ちながらも、松山は積み上げてきた実績とプライドまでは失わなかった。背面の慢性的、突発的な痛みを解消するため、上半身の再強化に取り組み、秋に日本で出場した2試合、年明けに開幕したPGAツアーの序盤戦も健康にプレーできた。
降下を続けていた世界ランキングはロサンゼルスに向かう直前、55位。プロ初年度の2013年6月以降のキャリアで最も低い順位で、背中には星野陸也や久常涼といった後輩たちが迫って来てもいたが、半面、戦えるまでのコンディションはゆっくりと上昇曲線を描いていた。
意外にも、30代で初めての優勝
日本の男子ゴルファーの牽引役を長らく務めてきた松山だが、ここ数年は身近なサポートチームのスタッフたちの引率者になったという変化もある。
マスターズを一緒に勝った後輩の早藤将太キャディを筆頭に、彼らはある意味で家族以上に親密な間柄。全米を駆け回る契約メーカーの用具担当者を除けば、目下の黒宮コーチのほかに寝食を共にするトレーナー、通訳もみな同い年か年下である。チームでは誰よりも、松山本人がPGAツアーでの生活が長く、コース内外の知識の蓄えがある。
32歳の誕生日を前に手にした、アジア人最多のPGAツアー9勝目は30代になって初めてつかんだ勝利。日本の男子ゴルフ界という大枠だけでなく、日常においてもリーダーという役目を背負って手にしたタイトルだった。
ジェネシス招待は、松山のキャリアにおいてちょうど250試合目のPGAツアーだったという。これまでのどの優勝よりも苦労した証をロサンゼルスに残して次のゲームに臨む。
非情にも、プロアスリートに流れる時間には勝ったその瞬間から、勝てない時が再び刻まれるのである。