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「名もない雑草にも陽は当たる」評価急上昇の広島ドラ3左腕・滝田一希が追求する速く強い真っ直ぐ《母を亡くし一時はプロ断念も…》
posted2024/02/12 11:01
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
KYODO
スポットライトを浴びる日を信じ、若手選手たちがしのぎを削っている。今年は日本ハムが第1クールから紅白戦を行ったように、プロ野球の春季キャンプは近年、チームとしての仕上がりが早くなっている。そんななか、広島のキャンプはまるでシーズン終了後に行われる秋季キャンプのようなメンバー構成で行われている。
2月6日の第2クールからは會澤翼や野間峻祥ら30代の選手が一軍キャンプから離れ、一軍キャンプに参加する30代野手は選手会長の堂林翔太、菊池涼介、田中広輔の3選手。彼らも一部別メニューとなり、全体メニューは20代の野手だけで行われている。投手陣も大瀬良大地、九里亜蓮の2投手をのぞけば、20代ばかり。19歳も2人いる。オフに目立った補強をしなかった広島が、若手の育成に力を入れ、チームの底上げを目指す思惑が感じられる。
大きな注目を集めたドラフト1位の常廣羽也斗が二軍スタートとなった中、新人の中でまず存在感を示したのが、ドラフト3位の滝田一希だった。
「強い真っ直ぐ」への期待感
二段モーションに加え、両腕を上下に動かすダイナミックなフォームから、思い切り左腕を振る。放たれる球は力強く捕手のミットに収まる。キャンプインの初ブルペンでは力みもあったというが、2度目のブルペン入りとなった3日は硬さも抜けて、球がより走っていた。測定分析機器のラプソードでは、151kmを計測。速くて、強い真っすぐに憧れた。いかに速く、強い真っすぐを投げられるか。それだけを追い求めてきた。
「もともときたない投げ方だったんです。これでもまだマシになったほう。いろんな試行錯誤をした結果です。大野(豊・元広島)さんとか、菊池雄星さん(ブルージェイズ)とかいろいろ参考にした。捻転差を出したいなと思って二段モーションなどいろいろなフォームを試したんですけど、タイミングが合わなかったので、いろんなものをミックスしたら今の形になった」
腰、背中、胸、腕……それぞれを下半身で引っ張るように捻転させることで強さを出そうと、大学3年生の秋、今のフォームにたどりついた。大きな予備動作に思い切りのいい腕の振りは、打者にはタイミングが取りづらい。ブルペン投球を見ていた関係者からも「変化球もあれだけ腕を振れたら、左バッターは怖いんじゃないか」という声が聞かれ、球団アナリストからはリリース時の強さ、ホームベース上の球の強さが特徴として挙げられた。