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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「地獄を見ました」中央大・藤原監督が明かす真相…箱根駅伝・優勝候補がまさかの13位“シード落ち”「8人発熱、悲劇はこうして起きた」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKYODO
posted2024/01/31 11:20
13位でゴールした中大のアンカー・柴田大地(1年)。箱根を走った中大メンバー10人のうち、8人が直前に発熱していた
「駿恭が期待通りの走りで、11位の帝京さんに対して2分02秒の貯金を作ってくれたんです。これなら、8区をしのげばシード権は確保できるかもしれないという期待が芽生えました」
しかし、2日前から発熱した阿部は中継所の時点から顔色がすぐれず、いつもの穏やかな表情が見られなかった。
「運営管理車のトイレ離脱があり、阿部に追いついたのは8km付近でした。一目走りを見た瞬間、いつもの阿部ではないことが分かりました。遊行寺の坂は本当にキツかったと思います。無理はさせられない、そこで『1km3分20秒ペースでいいよ』と声をかけ、2度の給水をしっかりとるように伝えました。出場した以上、なんとしても途中棄権は避け、大手町までたすきをつなぐことがもっとも大切だと考えましたし、フィニッシュできれば何かを残せると思ったので」
8区で、藤原監督は現実を受け入れる覚悟を持った。
「地獄を見ました」
「進退問題にも関わることだと思っています」
それでも中大はシード権獲得に向けて粘った。特に、前日に不安を訴えていたアンカーの柴田は、果敢な走りを見せ、シード権獲得に一縷の望みをつないだ。
それでも現実は甘くなかった。中大は13位でフィニッシュ。10位の大東文化大との差は1分16秒だった。
これだけの体調不良者が出ながら、10区までシード権争いに望みをつないだのは、中大の地力の表われだった。もしも、あとひとりでも体調が万全の選手がいたとしたら……。中大はシード権に手が届いていたかもしれない。
閉会式が終わり、私は藤原監督とふたりきりになって話をした。すると、監督は私にこう言った。
「これは、進退問題にも関わることだと思っています」
血の気が失せた顔からその言葉を聞いた時、私は心底驚いた。まさか、辞任するのでは、と。
<続く>