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「被災した石川県のために…」石川代表・五島莉乃が全国女子駅伝で独走区間賞…笑顔で走りレース後に涙「速いだけじゃない、尊敬される選手」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byKYODO
posted2024/01/16 17:00
全国都道府県対抗女子駅伝の1区を区間賞で駆け抜けた石川県代表の五島莉乃
ちょうど1カ月前の12月10日に日本選手権の1万mレースに出場した。そこで自己ベストとなる30分58秒83を出したものの、順位は4位に留まった。パリ五輪の代表権争いのかかった大事なレースの一つで、優勝を狙っていただけにショックは大きかった。
フィニッシュ後には大粒の涙をポロポロとこぼし、タオルに顔をうずめた。ペースメーカーを務めた同じ資生堂のジェプングティチに「せっかくペースを作ってくれたのにごめんね」と泣きながら謝り、「いいよいいよ、頑張ったよ」と励まされる場面もあった。
懸けていたレースを終え、心身ともに疲弊した。
「(今大会前に)すごいハイペースで練習をしていたわけでもないんです。日本選手権の後、ちょっと練習を落としてたりしていたので。自分の中でも(大丈夫かな)っていうのはちょっとありました」
不安は気持ちで凌駕した。
「石川のユニフォームを着て走るっていうのが、すごい力になりました。駅伝ってすごいですね」
ふるさとからのパワーをもらった五島のレースは、多くの人の心を揺さぶった。
レース後のインタビューでは涙も
笑顔で走り切った五島が、涙を見せたのはレース後のことだ。
「沿道から『石川がんばれ』と応援をいただき、走っていながら胸がいっぱいでした。石川県のみなさんに少しでも私たちの走りが届いているとうれしいなと思います」と涙を拭いながらテレビのインタビューに応じた。チームメイトや石川の人たちの事を考えると、涙が止まらなかった。
レースに集中するためにチーム内で地震の時の様子を話すことは多くなかった。言葉にしなくても理解はできる。
「チームの中には能登出身だったり、実家が能登の子もいて、とても大変な思いをしていると思います」
五島は涙を浮かべながら教えてくれた。4日から予定されていた合宿は中止になり、それぞれが京都入りをしたが、全員が揃ったのはレース2日前の12日だった。
チームミーティングでは全員が思いを言葉にした。
「一人ひとりが、石川に笑顔や元気、勇気だったりを届けたいと全員が口にしていました。みんな『石川県のために』と強い思いを思っていて、チームが繋がっていると感じました」
練習ができない状況の選手もいた。選手はもちろん、スタッフも大きな心労を抱えていた。でも、自分達にできることにチーム一丸で挑んだ。五島が大きなパワーをこめて渡した襷は、走った選手はもちろん、補欠を含めた選手、コーチやサポートスタッフの思いものせて、2時間27分55秒で43番目でゴールをした。全員がベストを尽くした。
レース前日も笑顔で対応
レース前に、大会主催者は報道陣に対して、石川県の中高生選手への質問を控えるようにという通達をした。被災した家族や友人、そして故郷に思いを寄せつつ、しかし「石川代表」としての強い気持ちを持ってそれぞれが京都入りした。