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「中高生の憧れ」“世界”の田中希実、じつはインターハイ優勝経験がなかった! 全国女子駅伝に向けて「憧れるのはいいと思うんですけど…」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAFLO
posted2024/01/13 17:00
2023年9月のダイヤモンドリーグ5000mで14分29秒18の驚異的な日本記録を出した田中希実。14日の全国都道府県対抗女子駅伝に兵庫県代表として2年ぶりに参加する
インターハイに関しては、西脇工の1年次は1500mで5位、2年次は1500m2位、3000mで4位。3年生の時は1500mと3000mの両種目で2位だった。3年次はケニア人留学生に敗れての2位だったが、1年、2年の時に1500mで優勝したのは日本人選手で、田中が高校時代から圧倒的に抜きん出ていたわけでなかった。
「高校生の時から世界を見ていたわけではないんです。(当時は)ライバル選手はほとんど皆、横一線という感じだったので、そこから抜け出すことに必死でした。タイムが離れているトップの人たちを目指すというよりは、まずはライバル選手に並びたい、抜け出したいというところから始まったんです」
その思考は、コーチであり父である健智さんの教えも大きい。
「私はせっかちなので、すぐに目指す場所に行きたいと思いがちなのですが、父に『それは無理だよ』と諭されるんです」と苦笑いをする。
田中は自分自身を見失いそうになると健智コーチの言葉を思い出し、自分の現在地の確認、そして目指したい場所を明確にし、そのために厳しい練習を地道にコツコツと行ってきた。
「いつか、きっと自分も」という強い気持ち
しかしその一方でタイムが離れたトップの選手たちに対しても「小さなライバル心」を持っていたとも言う。
「福士(加代子)さんの(当時の)日本記録を知った時やほかの選手がいい結果を出した時などは『いつか私も』と思うこともありました。(当時の自分は)高校記録すら出していなかったのに」と苦笑いをする。
(いつか自分もその舞台で活躍したい)
(日本記録を出したい)
当時も今も田中がそういう気持ちを言葉にすることはない。熱い思いは自分の胸の内に秘めておく。だが(いつか、きっと自分も)という気持ちが、彼女を強くしてきた。
だから、同じ競技で世界へ挑みたいと思っている中高生にも同じ気持ちを持ってほしいと望む。
「憧れるのはいいと思うんですけど、心に秘めるものはあってほしいんです」
もちろん一気に頂に辿り着くことはできない。だが、自分が挑もうとしている山の全景を見てから一歩ずつしっかり登ってほしい。絶対に登る、という強い気持ちを持って。
高校時代から「挑む姿勢」
世界の舞台では女子1500m、5000mはエチオピアやケニアといったアフリカ系の選手たちが席巻している。田中は彼女たちと肩を並べて戦っているが、挑む姿勢は高校時代から変わらない。