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「申し訳ない…」青学大“走れなかったキャプテン”が泣いた日「志貴さんの言葉でひとつになれた」箱根駅伝1週間前の“涙のスピーチ”
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2024/01/03 21:30
青学大キャプテンの志貴勇斗(4年)。最後の箱根駅伝では16人の登録メンバーに入れなかった(写真は3年時の出雲駅伝で)
「僕たちの学年で箱根駅伝を走ったのは(佐藤)一世と僕しかいないので、実績がないんです。3年生は太田蒼生、若林宏樹と1年生から箱根駅伝を走ったことがある選手もいて、元気と活気のある学年ですし、チームが発足した当初は、『信頼できない』という言葉をもらったこともありました。『ああ、そういう風に見られていたんだな』と思いましたけど、いろいろな意見が出るのが青学らしさかな、と思うので」
「本人が一番苦しかったと思います」
志貴はチームマネージメントにおいて柔軟だった。原監督には「部活動は最上級生、4年生のもの」という考えがあるので、部を運営するにあたっては4年生の学年ミーティングが重要な意味を持つ。しかし、今年の夏合宿からは4年生だけではなく、学生全員の話し合いが行われるようになった。
あまり実績がない分、下級生を巻き込んでいこうという意図が垣間見える。キャプテンの志貴をはじめ、寮長の鈴木竜太朗、主務の赤坂匠らの4年生は、元気な下級生のパワーをポジティブな方向へ導こうとしていた。
しかし、駅伝シーズンが近づくにつれ、志貴の状態がなかなか上がってこない。夏合宿でもあれだけ走りこんでいたのに、なぜ――。
志貴とともにチームをまとめてきた主務の赤坂は、11月の時点でこう話してくれた。
「出雲、全日本とメンバーに入れない志貴を見るのは、つらかったです。本人がいちばん苦しかったと思いますが……。それでも、なんとか気持ちが折れることなく、頑張っていますから」
箱根駅伝に向け、メンバー選考に重要な意味を持つ11月の世田谷246ハーフ、MARCH対抗戦でも志貴は不発に終わった。結果的に志貴は16人の登録メンバーから漏れた。佐藤一世はいう。
「それでも、志貴はジョグで引っ張ってましたから」
競技者として結果は残せなかった。しかし、キャプテンとして志貴は背中を見せた。そして12月28日、志貴の言葉が部員の心を動かした。
「僕の理想は神林さんです」
陸上は究極の個人競技だが、こと駅伝となると団体競技要素を帯びる。
気持ちがひとつになるなんてことはない。しかし、部員の気持ちがなにかに突き動かされない限り、印象に残るレースはできない。佐藤はいう。