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井上尚弥「ディフェンス面が思ったよりすごくて…」タパレスの健闘は“階級の壁”によるものなのか? 当日体重は「井上より2kg以上重かった」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/12/27 17:04
10回KO勝ちでスーパーバンタム級4団体統一を成し遂げた井上尚弥。マーロン・タパレスの奮闘も印象に残る名勝負となった
KO負けでも「健闘」の印象を残したタパレス
井上が「判定も頭をよぎった」という10回、クライマックスは訪れた。タパレスはネジを巻き直して再び前に出たが、中盤までの力強さはない。井上がワンツーを打ち込むと、ロープに飛ばされたタパレスがついに崩れ落ちた。キャンバスに両手をついたタパレスは緩慢な動作で立ち上がることができず、10カウントとなった。
最後の場面について、井上は「手応えは正直なかった。タパレスが崩れ落ちたとき、これほどダメージが蓄積していたのか、と思ったので。タパレスは苦しい表情を見せず、そこまで読み取ることはできなかった」と説明した。
9回までのスコアはジャッジ1人が井上のフルマークで、1人が1ラウンド、1人が2ラウンドをタパレスに与えた。最終的にKO負けで、スコアも大きく引き離されていたタパレスが「健闘した」という印象を残したのは、“モンスター”井上のこれまでの勝ちっぷりがそれだけ突き抜けていたことの裏返しと言えるだろう。
大橋秀行会長は「判定勝ちとKO勝ちでは全然違う。この状況でKO勝ちしたことに、あらためてすごさを実感した」と興奮気味に話した。会長本人が「前にも言ったけど」と前置きしたように、これは昨年12月、終始ディフェンシブなポール・バトラー(英)を11回TKOで下してバンタム級4団体統一を達成したときと同じセリフだ。
「判定濃厚」というムードの中でも最後はKOしてしまう。対戦相手はギリギリのところでしのぎながらも、徐々に追い詰められ、ダメージを与えられているということだ。そう考えれば、今回の勝利はモンスターの必勝パターンの一つだったと言えるかもしれない。
井上は来年、スーパーバンタム級で挑戦者を迎え撃つと宣言した。名前が挙がっているのはWBC指名挑戦者のルイス・ネリ(メキシコ)、WBA指名挑戦者のアフマダリエフである。ともに元世界王者であり、井上に挑戦するだけの格を備えた選手といえる。