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井上尚弥「ディフェンス面が思ったよりすごくて…」タパレスの健闘は“階級の壁”によるものなのか? 当日体重は「井上より2kg以上重かった」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2023/12/27 17:04
10回KO勝ちでスーパーバンタム級4団体統一を成し遂げた井上尚弥。マーロン・タパレスの奮闘も印象に残る名勝負となった
客席から上がった声「井上、もらうなよ!」
井上はいつも通り、前に出たり、下がって引き込んだりしながらタパレスを崩しにかかった。3回には内から、外から、左右のパンチを打ち込んでタパレスのガードをこじ開けようとした。
4回、タパレスが流れを変えようと前に出た。ジャブ、左ボディストレートで井上に迫り、攻防は頭をつけての接近戦へ。ラウンド終盤、井上が左フックを突破口に連打を見舞うと、最後は左フック、右ストレート、左フックのコンビネーションでタパレスがキャンバスに崩れ落ちた。立ち上がったところでゴングが鳴った。
5回、井上は試合を決めにいった。チャンスを逃さない。それは私たちがさんざん見てきた“モンスター”井上の流儀だ。ところがここでタパレスが粘る。井上の攻撃を下がらずに受け止め、パンチを打ち返して応戦。このラウンドをしのぎ切る。タパレスがタフネスとガッツを証明したラウンドとなった。
ここから井上は再びタパレスの強固な防御を崩していく作業を強いられる。タパレスは後ろ重心なだけでなく、斜めに構えて右肩でアゴを隠し、上体を柔らかく使って井上のパンチを殺す。父の真吾トレーナーはこうアドバイスを送ったという。
「当てづらいと言っていたので、打ち合うよりもカウンターとか、打ち終わりを狙うとか、コツコツ、ジリジリいけばいいと」
穴をこじ開けようとする井上と、それをさせまいとするタパレスのせめぎ合いだ。井上は目の覚めるようなクリーンヒットを打ち込めず、ミスブローがいつもより多い。とはいえ、右ストレートや左フックがガードの上を叩き、浅く顔面をとらえることもあった。井上のパンチはガードの上からでも効く。コツコツ、ジリジリ。真吾トレーナーの指示通りだ。
4、5回の苦しい場面をしのいだタパレスも勝利への執念を見せた。7回にはジャブで井上の顔を跳ね上げ、この試合で唯一ジャッジ2人から支持を集める。客席から「井上、もらうなよ!」と声が上がるのを耳にしたのは初めてではないだろうか。