濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「ひめかが引退して、強くなれた」 スターダム・舞華に芽生えたプライド…職人気質が号泣した日を乗り越えて「今回だけは譲っちゃダメなんです」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2023/12/28 17:00
12月29日の両国国技館大会で、赤いベルトを懸け鈴季すずと対戦する舞華
「受身一つで命に関わることもある世界なので」
自分の持ち味は「試合でケガをしないしさせないこと」だと言う。パワーや迫力のあるファイトという答えを予想していたから意外だった。
「相手が出す技をしっかり受けとめる。思い切り受けて、それでもケガをせずに勝っても負けても試合を終える。そういうプロレスを誇りに思ってます」
舞華がデビューした団体は技巧派のTAKAみちのく率いるJTO。そこで基本をしっかり教わってきた。
「師匠(TAKA)が“受けの美学”が強い人だったという影響もありますね。受身一つで命に関わることもある世界なので」
フィジカルトレーニングではスクワットなど下半身の強化を重視。ジャンプ系の練習も意識してやっている。
「着地の瞬間の角度が悪いとヒザをケガする危険性があるので。女子選手は着地で足が内側を向く傾向があるんです。それを平行か親指がヒザより外を向くようにやってます」
「今回だけは譲っちゃダメなんです、絶対に」
雪崩式ブレーンバスターなど豪快なファイトぶりの根底には、繊細なこだわりがあった。少ない技で試合を組み立てることを大事にしてもいる。ベースである柔道の技を使うことは減っていった。
「柔道出身は他にもいるので。(羽南、妃南、吏南の)3姉妹とか、最近デビューした弓月もそうですし。だから私は違うことをやればいいと。1段階、2段階ステージが違うんだよという気持ちもありますし」
大型ファイターを支えてきたのは、意外にも職人気質だった。あえて聞いてみる。「舞華さん、いろんな面で譲りがちなところもありませんか?」と。舞華ははっきり「譲りがちですね」と答えた。
「パワーの面では頭抜けてると思うんですけど、それ以外はオールマイティというか、どんなことでも対応できるんですよ。そこは良し悪しで。周りは主張の強い選手ばかりなので“みんながそうなら私は違うことやればいいや”となるんですよね。譲ってもなんとかなってしまう。正直、それがマイナスだったこともあります。だからこそ、今回だけは譲っちゃダメなんです、絶対に」
職人気質で譲りがち。つまり周囲への目配り、気配りもできるタイプということだろう。そういう選手がトップに立てば、理想のリーダーになるかもしれない。何も譲らなくなった舞華は、いったいどれだけ強いのか。