濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「ひめかが引退して、強くなれた」 スターダム・舞華に芽生えたプライド…職人気質が号泣した日を乗り越えて「今回だけは譲っちゃダメなんです」
posted2023/12/28 17:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
勝てそうで勝てない。スターダムの舞華には、そんな印象があった。
162cm、65kgの体格は女子では大型。柔道で実業団まで進んだ格闘ベースもある。まぎれもない“本格派”であり、試合ぶりには迫力も華もある。“女帝”というキャッチフレーズがよく似合う風格も。
デビューしたJTOからスターダムに移り新人王座フューチャー・オブ・スターダム、6人タッグ王座、タッグ王座を獲得。しかしシングルのトップタイトルにはなぜか届かない。実力的にはいつでも勝てそうなのに、だ。
“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダムには3回、“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダムには1回挑戦。今年はシングルリーグ戦「5★STAR GP」の決勝に進出している。しかしここでも、鈴季すずに敗れた。
インタビュースペースで号泣した日
観客からの声援は圧倒的と言っていいほど舞華に集中した。これまでの、勝てそうで勝ちきれない悲運のキャリアを知っているからこそだ。まして今年の舞華には、タッグパートナーであるひめかの引退という大きな出来事もあった。ファンは舞華が人生を変える瞬間を見たかった。なのに、勝てなかった。
試合後のインタビュースペースで、舞華は号泣した。
「応援してくれたファンのみんな、仲間、家族、そしてひめか……優勝できなくてごめん。何も変わることが、変えることができなかった。これからどうしていいのか分からない。正直、プロレスから離れたい。どのツラ下げてリングに上がればいいのか分からない……」
ここで一度、自分の心が折れてどん底に落ち込んだと舞華は振り返る。
「これまでの蓄積もあったんだと思います。心がギシギシいっていた。大事なところで勝てない、いいとこ止まりみたいな印象は自分でもあったし、ひめかが志半ばで引退を選んだからこそ、自分がやらなきゃとプレッシャーにしていた部分もあります。それに声援も凄かった。9割くらいが私の応援という感じで。でも期待してもらった分、負けた瞬間にすべての重みがズドーンと一気にのしかかってきた。それで崩壊しましたね、気持ちが」
それまで自分がトップに立てる選手だと信じていた。赤いベルト、白いベルトを巻きリーグ戦で優勝するべき選手だと疑ったことがなかった。しかし唯一、この瞬間だけは「もう無理かも」と思ってしまった。