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“学生世界一”に輝いた女子ランナー「試合でも『見られる意識』はしています」 かつて“芸能界を諦めた”北川星瑠(22歳)に訪れた転機
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byL)Takuya Sugiyama、R)AFLO
posted2023/12/29 11:04
ワールドユニバーシティゲームズで金メダルを獲得、松竹芸能への所属でも話題を集める大阪芸術大の北川星瑠(4年)
バドミントン部ながら陸上の県大会で優勝し…
そうして芸能の道を諦めた彼女が、まず取り組んだのが部活のバドミントンだった。するとコート内での運動量を買われ、陸上部の“助っ人”として駅伝大会に出場。これが転機となった。陸上部の顧問の誘いを受け、中学2年で初出場した滋賀県の春季中学総体女子1500mで見事優勝を手にしたのだ。
「強化合宿に参加しているわけじゃないし、他の子たちに『誰!?』ってびっくりされて(笑)。バドミントンのコートは狭いのですが、最後のセットまで戦い抜くにはかなりの体力が必要なんです。それで毎日20~30分は走っていたので、地力がついたのかもしれません。
でも、バドミントンはいくら頑張ってもレギュラーに選ばれなくて。それなのに専門じゃない陸上の大会で優勝できたんだから、もしかしたらもっと上を目指せるんじゃないかと思ったんです」
その優勝がきっかけとなり、その後もバドミントンと兼部しながら陸上の大会に出場するように。中学2年、3年時と連続で都道府県対抗女子駅伝の滋賀県代表に選ばれた。中学卒業後は県内の強豪・比叡山高に進学。3年連続で全国高校駅伝に出場し、主力としてチームを率いた。
大阪芸術大では「ミュージカルコース」に所属
長距離選手として着実に実力をつけていく間に、芸能活動の夢は薄らいでいったはずだった。しかし、それは自ら蓋を閉じていただけで、ずっと心の奥底に眠っていた。高校卒業の時期が近づくにつれ、かつての思いがふつふつと湧き上がり、北川は改めて「夢」と向き合うことになる。
「芸能活動を離れている間も、オーディションを調べたりすることもありました。挑戦してみたいなとは思いつつ、でも難しいだろうなという葛藤を抱えていて……。でも、進路を決めるときに『自分が本当にやりたいことは何なのか』と改めて考えたら、やっぱり芸能のお仕事をしたいという気持ちが一番大きいことに気づきました」
当初は卒業と同時に陸上から離れて、芸術大学でその道を極めるつもりだった。ただ、恩師や両親からの「陸上を思う存分武器にしたほうがいいんじゃないか」との助言もあり、関西有数の実力を誇る女子駅伝部を備えた大阪芸大に進学。陸上と芸能、どちらの道も諦めないための選択だった。
北川は舞台芸術学科ミュージカルコースに所属し、舞台美術や照明など裏方業を学ぶ傍ら、ボーカルやダンス、演劇表現などの実習に勤しむ。同時に、長距離選手として学生トップクラスの成績を残してきた。1年時に日本インカレ5000mで6位入賞。富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝)では2年連続で2区区間賞を獲得している。