「あれは動画で何度も見てしまうシーンなんですよ。本当、僕の野球人生の中で一番うれしかったんじゃないですかね。まさか打てるとは思っていなかったので」

“デスターシャ”を控えめに…なぜ？

　3点を追う2回裏、無死満塁で先発の濵口遥大の代打で知野は打席へ向かった。試合序盤での代打ということで、心の準備はできていなかったのではないか、と知野に尋ねるとかぶりを振った。

「いや、2回表に丸（佳浩）さんがホームランを打った時、石井（琢朗）コーチから『知野、準備しておけよ』って声が掛かっていたので、体と心の準備はできていました」

　相手投手は井上温大。無死満塁のしびれる場面だったが、知野は自分でも驚くほど冷静だったという。

「初球の高めのストレートを見送って、いつもなら振れない最初の変化球をファウルにして、あ、冷静だなって。これはいけるかもって思ったんですよ。追い込まれても、間を嫌がって自分でタイムをかけたり、不思議と周りがよく見えていましたね」

　そして4球目のインハイのストレートを豪快に振り抜くと、ボールは放物線を描きレフトスタンドへ消えていった。逆転のグランドスラム。知野にとっては2年ぶりとなるプロ2本目のアーチだった。

　ダイヤモンドを一周すると、ベンチ前でDeNA名物の“デスターシャ”を、なぜか控えめに披露した。発案者の佐野恵太に呼応し、同学年の山本祐大や牧秀悟と率先して一緒になってこれまでやってきたのに、いざ自分がやる段になると勝手がわからなくなってしまった。

「なんかやり方がわからなくて、探り探り出しちゃいました。ちょっとうれし過ぎちゃって」

　あふれ出る喜びと驚き。この試合は残念ながら再度逆転され敗退するのだが、それでも知野の残した大きな爪痕は、今季の名シーンのひとつになった。

ファームに落ちてから、自分を変えたんです

　改めて今季の知野の一軍打撃成績を見ると、30打数5安打、打率.167と一見芳しいものではなかった。ただ出塁率は.342と高く、四球（7個）をよく選んでいることがわかる。またファームの成績は、250打席以上立ち打率.275、34四球、出塁率.370という数字を残しており、ここでも自分が何をすべきなのか理解していることがわかる。

「僕がこだわっているのは、やっぱり出塁率ですね。シーズン前のミーティングで出塁率を意識してやっていこうというチーム方針だったので」

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