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胃がん告白の藤井直伸に「俺はもう一回藤井のトス打つで」…31歳で亡くなった名セッターと清水邦広の絆「僕らの前では弱音は一切吐かずに…」
posted2023/12/14 11:04
text by
清水邦広Kunihiro Shimizu
photograph by
Getty Images
長く男子バレーの低迷期を支え、チーム最年長として東京五輪でベスト8進出を果たしたレジェンド・清水邦広(パナソニックパンサーズ)が明かす、個性あふれる日本代表メンバーの素顔とは。初の自伝『不屈 挫折をバネに飛ぶ男』(KADOKAWA)より、一部を抜粋してお届けします。第3回は、2023年3月に31歳の若さで亡くなった名セッター・藤井直伸さんとの思い出を振り返ります。(全3回の3回目/#1「ブラン監督・石川祐希編」、#2「西田有志・高橋藍編」も読む)
藤井直伸(東レアローズ)・セッター
2023年3月10日、東京五輪で一緒に戦った藤井直伸が、旅立ちました。あまりにつらく、早すぎる別れでした。
2022年1月、Ⅴリーグの試合に藤井が出場していなかったので、気になって「どうしたん? 何かあったん?」と電話したんです。そうしたら、「ちょっと目が見えづらいんです」と。僕は中学生の時に網膜剝離になったことがあったので、その時のことを思い出して、「目の前に自分の手をかざしたら、指が真っ暗で見えなかったりしない? そういう症状があったら網膜剝離の可能性があるよ」というようなやりとりをしました。その時はまだ原因がわからないということだったので、「何かわかったら教えてやー」と言って、電話を切りました。
それから1ヶ月ほど経った頃、藤井が電話をくれました。
「原因がわかりました」
その声が震えていました。
すぐにただ事ではないと感じて、失明の可能性があるとか、そういうことを想像したんですが、まったく予想もしなかった病名でした。「胃がんのステージ4」。目の症状は、脳へ転移したがんの影響だということでした。
僕は動揺してしまって、なんと声をかけていいかわかりませんでした。藤井は、声を震わせながらも教えてくれたのに、僕はどんな言葉を返していいかわからなくて、「マジか……そうか……」と絞り出すことしかできませんでした。
自分に何か言葉があったらなと思って必死に頭を巡らせたんですけど、その場では出てこなくて。
だから電話を切ったあと、LINEでこのように送りました。