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「昌磨くんがいたお陰で…」鍵山優真20歳が優勝後に語った宇野昌磨とコストナー・コーチへの感謝「五輪に向かってカロリーナさんと一緒に」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2023/12/02 17:00
NHK杯で優勝し初のGPファイナル進出を決めた鍵山優真(20歳)
「僕は、個性がほしいんです。鍵山優真といれば、これだよね、って言われるなにか。皆にスケーティングが上手だねって言ってもらえることは多いのですが、本当にそうなのかな?と思っていて、例えばカロリーナさんは滑ってるだけで演技になっちゃうし、あっという間にプログラムが終わる。僕の滑りは、まだ個性とまでは言えません」
鍵山は、オリンピアンでもある父・正和コーチから、徹底的に基礎を教え込まれてきた。滑りも、ステップも、ジャンプも、すべてが教科書通りといえる効率的な動きをする。
「スケーティングが長所なら、それをもっと伸ばしていきたいな、と。その長所を、個性と言えるくらいのものにしたい、と思ったんです」
コストナーも言う。
「優真のスケーティングは、まるで宙に浮いているかのように軽やかで、あっという間にリンクの端まで行ってしまいます。初めて見たのは2019年の日本スケート連盟の合宿に講師として呼んでいただいた時なのですが、まさかコーチになる運命だなんて思いもしませんでした。私の役割は、優真が自身の内面にあるものを演技に乗せていくための、アプローチの手助けです。芸術的な側面というのは、技術も精神面も人生経験も、すべてが必要になり、時間がかかるもの。でも優真はその方向性をしっかりと理解してくれています」
GP初戦のフランス杯は、演技面に手応えを得て3位。フランス杯後は、欧州と日本で練習を重ね、ブラッシュアップを続けてきた。
「カロリーナさんからは、曲の理解や、振り付けの動きの意味を細かく習ってきました。1つ1つの動きに意味を持たせることで、ストーリーが生まれる。ショートは『痛みを振り払う』『痛みが自分の力になる』という意味を意識しながら動くようにしています」
コストナーの指導は、具体的でかつ実践的だ。例えば、「手を伸ばす」という動きに対してこんな風に言葉をかける。
「ただ手に力が入っていればパワフルなわけではないのよ。手を振り払うのと、掴み取ろうとするのと、同じポーズだとしても意味が違うでしょう。もっと上半身全体で、手だけじゃなく肩から動かして」
そして彼女がやってみせ、鍵山がそれに呼応する。そんな練習を繰り返し、新しい世界への扉を探った。
「思わずガッツポーズでした」
迎えたNHK杯。ショートの演技前、リンクサイドに立った2人のコーチが、それぞれアドバイスをした。