指揮官の言葉は、他馬陣営への礼儀と敬意をこめたものであって、外から見ると、他馬にはキツい超ハイペースをまったく苦にしなかったイクイノックスが桁外れに強かったから生まれたレコードにほかならない。

JCで三冠牝馬と激突か「名勝負の予感がビンビン」

　昨年のこのレースでは、逃げたパンサラッサが、1000m通過57秒4という、今年と同じようなハイペースをつくり、2着に逃げ粘った。今年のラップと比べると、1200m通過は今年が1分9秒1で、昨年が1分9秒0。1400m通過は今年が1分20秒5で、昨年が1分20秒8と、直線に向くまで、どちらも同じようなペースで流れていた。

　昨年は、パンサラッサが直線に入ったとき、イクイノックスは20馬身ほども後ろにいて、ゴール直前でギリギリとらえての勝利だった。それに対して、今年は、逃げ馬をずっとすぐ前に見ながら、直線に入ってほどなく並びかけ、そこからさらに伸びて、突き放した。要は、昨年と同じような流れのなかで横綱相撲を取って、圧勝したのだ。

西日に照らされ、筋肉と血管が浮き上がったイクイノックスの馬体　©Keiji Ishikawa

　これまで私が木村調教師に聞いた話を総合すると、イクイノックスは、「成長」という概念が当てはまらない「天才」なのだが、この1年で大きく「進化」したことは間違いない。

　進化した天才が、鞍上の名手に「自分のペースで、安心して走ることができた」と言わしめたパフォーマンスを、無理せずに発揮した結果の走破タイムが、このスーパーレコードだった、ということだろう。

　次走のジャパンカップで、こちらもまたとてつもなくスケールの大きい三冠牝馬リバティアイランドと激突する。今から名勝負の予感がビンビンする。