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天皇賞・秋「1分55秒2の衝撃」…イクイノックスはまるで“競馬界の大谷翔平”「こんなタイムで2000mを走るのは不可能」「もはや馬では…」
posted2023/10/30 18:25
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
Keiji Ishikawa
この馬の強さに驚かされるのには慣れてしまい、圧勝劇を見ても、以前のようには鳥肌は立たなかった。しかし、勝ちタイムが表示されると思わず声を上げ、掲示板の「1.55.2」という数字を、周りの観客と同じように、スマホで「記念撮影」をせずにはいられなかった――。
驚愕のレコード「1分55秒2」はなぜ生まれたのか
令和初の天覧競馬となった第168回天皇賞・秋(10月29日、東京芝2000m、3歳以上GI)で、クリストフ・ルメールが騎乗した1番人気のイクイノックス(牡4歳、父キタサンブラック、美浦・木村哲也厩舎)が2馬身半差で優勝。同レースを連覇し、GI5連勝をなし遂げた。勝ちタイムは、従来の記録をコンマ9秒も更新する、1分55秒2という驚異的なJRAレコードだった。
いくら高速馬場とはいえ、2000mで1分55秒台が出るなど、想像すらしていなかった人がほとんどだろう。タイムは、流れや馬場状態などに左右されるので、昔から「競馬は時計ではない」と言われている。しかし、レコードタイムもここまで来ると、もはや「絶対的な強さを示す領域」と言っていい。どうやってもこれに近いタイムで2000mを走り切ることは不可能、という馬が大多数だからだ。
この驚愕のレコードタイムは、なぜ生まれたのか。天覧競馬の1分55秒2を振り返ってみたい。
ゲートが開くと、7番枠のイクイノックスは好スタートを切った。内のガイアフォースと、外の10番枠から出たジャックドールが両側からかわして行き、最初のコーナーである2コーナーを回る。すぐにジャックドールがハナを取り切り、向正面へ。
ジャックドールの2馬身後ろにガイアフォース、その3馬身ほど後ろの3番手にイクイノックスがつけている。3コーナー入口で、実況が、1000m通過が57秒7であることを告げ、タイムがターフビジョンに表示されると場内から歓声が上がった。
超ハイペースである。そんななか、逃げ馬を射程にとらえながら3番手につけたルメールはしかし、「イクイノックスにとっては普通のペース」と言い切った。
「彼の飛びはすごくスムーズです。ぜんぜん力を使っていなかったから、3番手でちょうどよかった。そんなに速いと思っていなかった。オーバーペースではなかったです」