涼しい顔でそう話した。超ハイペースで先行するのは、どんな強い馬にとっても危険なことなのだが、レーティング世界一のイクイノックスにとっては「自分のペース」だったというのだ。

「馬ではない」と言いたくなる、とてつもない時計

　ジャックドールが先頭のまま直線へ。ガイアフォースとイクイノックスがジャックドールとの差を縮めていく。ラスト400m地点で、ガイアフォースが内のジャックドールに並びかけて先頭に立ち、スパートする。

　その外からイクイノックスが楽な手応えのまま伸びてきた。ラスト300m付近でルメールが追い出すと、あっさりガイアフォースをかわし、独走態勢に入る。

ハイペースを3番手で追走しながらも、余裕の手応えで抜け出すイクイノックス（右端）　©Keiji Ishikawa

　ラスト200mを切って、左鞭を入れた直後にルメールはちらっとターフビジョンを見た。

「後ろとの差が3、4馬身あって、イクイノックスはぜんぜん疲れていないので、勝ったと思いました」

　そこからは強く追わず、気を抜かないよう軽く首を押しながらフィニッシュ。2002、03年のシンボリクリスエス、2019、20年のアーモンドアイに次ぐ、史上3頭目となる秋の盾連覇をなし遂げた。

　2馬身半差の2着は後方2番手からメンバー最速の上がりで追い上げてきたジャスティンパレス、さらに1馬身1/4遅れた3着は最後方から伸びてきたプログノーシス、4着は中団につけていたダノンベルーガだった。そこから2馬身半後ろの5着に、道中2番手にいたガイアフォースが入っていたが、2、3着が後方にいた馬で、逃げたジャックドールが最下位に沈んだことが、先行馬には厳しい流れだったことを示している。

「1.55.2」という信じがたいタイムが掲示板に表示されると、東京競馬場はどよめきに包まれた　©Keiji Ishikawa

　勝ちタイムが掲示板に表示されると場内がドッと沸いた。1分55秒2というのは、2000mの時計という感覚ではない。MLBの大谷翔平がよく「人間ではない」と言われるように、イクイノックスも「馬ではない」と言いたくなる、とてつもない時計だ。

　管理する木村哲也調教師は、レコードについて水を向けられると、こう答えた。

「イクイノックスがすごいというより、レースの質がすごかったと言うべきだと思います。すべての馬の関係者が、この天皇賞を勝とうと注ぎ込んだエネルギーがそうさせたのだと思います」

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