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「WBCがなかったら…」ヌートバーがいま明かす“夢の出会い” 藤浪晋太郎、千賀滉大、まさかイチローにも…「母にユニフォームを奪われて」
text by
ブラッド・レフトンBrad Lefton
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/10/22 17:00
侍ジャパンの一員としてWBC優勝に貢献したヌートバーと彼を見つめる大谷翔平。ヌートバーがWBC後の夢のような出会いについて秘話を明かした
南カリフォルニアで生まれ育ったヌートバーは、メジャー初の日本人野手がやってきた2001年、3歳だった。子供の頃から8巡目でカージナルスにドラフトされた2018年まで、憧れのイチローに会うのは夢に過ぎなかった。
しかし、WBCで侍ジャパンの世界一に貢献してから1カ月もたたないうちに、シアトル遠征があった。初戦の4月21日に最も心に残る出会いが実現した。マリナーズの練習を見て、外野で体を動かしているのがイチローだと気づき、勇気を持ってライトまで走っていった。そして、WBCの大先輩に思い切って自己紹介したのだ。
「夢のような出会いでした。すごく緊張しましたが言葉にできないほど、嬉しかった。まさかイチローさんに会えるなんて思ったこともなかったけど、侍ジャパンに選出してもらったおかげで一生忘れられない出会いが叶った」
試合後にクラブハウスで、ヌートバーは満面の微笑みを浮かべながら、イチローにもらったマリナーズの白いホームユニフォームを見せていた。紺色の背番号51番の「5」の中には、シルバーの文字でイチローのサインが入っていた。
母からイチローのユニフォームを奪われ…
しかし、この自分だけの貴重な“宝物”は、まもなく“家宝”に変わったという。
「母に奪われました。あげたのではなく、獲られたんですよ。母はイチローさんの大ファンで、僕にイチローさんのすごさを教えてくれたのも母だった。彼女にとって最も偉大な人。だから母が友達と一緒にセントルイスに遊びに来た時、そのサイン入りユニフォームを持ち帰られてしまって。友達に“触っちゃダメだよ”と言いいながら。まぁ、“家宝”として大事に守ってくれるのであれば許すけどね」
ただ、イチローからは、母親にも奪われない貴重なものをもらった。それはメジャー3年目、26歳のヌートバーがより良い選手になるための金言だった。開幕戦で三塁にヘッドスライディングした時、左手親指を突き指して、負傷者リスト入りしてしまった。13試合も欠場したヌートバーはイチローにヘッドスライディングしたのはどんな場面だったかと聞いてみた。すると、大きな収穫となる言葉をもらえた。
「絶対やらないと言ってました。イチローさんがそう断言するなら聞くべきでしょう。僕も、やらなくていいかなと考えていたけど、イチローさんが否定するならもうそれで決定。(これからは)やめると決断した」
イチローからのアドバイスで数々の自己ベストを更新
その後、ヌートバーがシーズン終了まで頭からスライディングすることは一度もなかった。さらに自己最高11盗塁も記録した。それもイチローからのアドバイスの賜物だという。