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将棋PRESSBACK NUMBER
誰よりも藤井聡太と指してきた男、永瀬拓矢が明かしていた「藤井さんの実力が爆発した瞬間」「あれぐらいの不利は終盤で跳ね返してくる」
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph bySankei Shimbun
posted2023/10/21 06:01
2022年の棋聖戦での番勝負でも戦った藤井と永瀬。快進撃を続ける藤井の“妙手”を永瀬は「特別すごいとは思いませんでした」と冷静に見ていた
「開幕局ならではの現象なんですよね。開幕局は振り駒なので先後が決まっていません。どうしても事前準備は後手番が中心になります。2局目は私が先手になって、角換わりに誘導しました。藤井さんが手厚く研究している後手番で、『研究将棋はどうですか』と打診したら、『受けて立ちます』と強いカードを出してきたんです。こちらはちょこちょこ時間を使いましたが、藤井さんは全部で1分しか使わずにビシビシ指してこられた。もちろん私だって先手の研究はしていましたが基礎知識が中心で、明らかに藤井さんの準備が上回っている雰囲気だった。そうなると、自分はその勝負は降りますね」
彼の戦略の思考法がよく出ているので実に興味深い。
八冠達成後の夜に藤井との練習再開を明言
第1局を制した永瀬だったが、第2局から3連敗し、1勝3敗で敗退した。このシリーズが決着した翌日、主催の産経新聞社の取材で今後の永瀬との練習将棋について問われた藤井は「私には永瀬先生しかいませんから」と答えている。
二人はその後も練習将棋を続けた。何も懸かっていないが、本番さながら、それ以上の気持ちで駒を運んだ。2023年には藤井が最後の一冠を懸けて、永瀬が保持する王座に挑戦するという運命の展開に。劇的な決着で藤井が3勝1敗で奪取し、将棋界初の八冠全制覇を果たした。
永瀬は敗退した第4局の夜の取材で、「終わってしまえばノーサイド」と語り、藤井との練習将棋を再開する旨を明かしている。
藤井との決着はついたと見るのは早すぎる
藤井が全冠制覇を成し遂げたことで、気の早いメディアは「藤井を倒すのは誰か」と、藤井と同学年や年下の棋士に視線を向けているようだ。私も今の奨励会員には注目しているが、内容で藤井に最も肉薄したのはこの王座戦の永瀬だ。タイトル戦では二度負けているが、決着はついたと見るのは早すぎるだろう。
最後に、私が永瀬から聞いた、藤井についての最も印象的な言葉で締めたいと思う。
「藤井さんの存在があって幸せです。自分もタイトルを獲得するところまで来ましたけど、さらに上の目標があるって嬉しくないですか。先を行く人がいるから追いつこうと頑張れる。でも目の前には誰もいないのに、藤井さんはどんどん前進しているんですよね」
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