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将棋PRESSBACK NUMBER
誰よりも藤井聡太と指してきた男、永瀬拓矢が明かしていた「藤井さんの実力が爆発した瞬間」「あれぐらいの不利は終盤で跳ね返してくる」
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph bySankei Shimbun
posted2023/10/21 06:01
2022年の棋聖戦での番勝負でも戦った藤井と永瀬。快進撃を続ける藤井の“妙手”を永瀬は「特別すごいとは思いませんでした」と冷静に見ていた
7、8月は「泥沼だった」と永瀬は語るが、それでも竜王戦の挑戦者決定戦に進出する。だが藤井に連敗を喫してしまう。なるほど第1局では先手で過去得意としていた三間飛車を約11年ぶりに採用するなど、苦心の跡が窺えた。9月から始まった王座戦の防衛戦はかなりピンチで、第1局で木村一基に敗北。「気合は持続しないのでで頼ったらダメなんですけど、この時はそれくらい追い込まれていた」と言うように、第2局から気持ちを奮い立たせて3連勝し、なんとか防衛を果たした。
対藤井戦の勝利が自信に
復活のきっかけはやはり藤井だった。この年の秋の王将リーグの最終戦ですでに挑戦を決めている藤井に勝ち、「大きな自信になって、モチベーションが回復した」と永瀬は語る。どれだけ藤井の存在が大きいかを物語るエピソードだ。
そしてついに藤井とのタイトル戦が実現した。2022年の棋聖戦の挑戦者決定戦で渡辺明を倒したのである。「タイガー・ウッズのような方」と永瀬が評する渡辺には、煮え湯を飲まされ続けてきた。非公式のレーティングはそれほど変わらないのに、通じない。その渡辺に勝って藤井に立ち向かえることは大きな喜びだった。
2度の千日手で異例の1日3局
私はこのシリーズの第1局を取材した。千日手が2回続き、3度目の対局で永瀬が後手番で質の高い準備を見せ、そのまま押し切った。1日3局はタイトル戦では異例で(その後、藤井は叡王戦で菅井竜也を相手に経験した)、永瀬が体力勝負に持ち込んだのかという推測もあった。そして意外だったのが、「これが永瀬さんが藤井さんに見せたかった光景なのか」とごく一部のファンから批判的な声が上がっていたことだ(この伏線には永瀬の「自分がもっと強くなって、藤井さんがまだ見ていない景色を見せてあげたい」という発言がある)。これは千日手が卑怯な作戦かのような物言いで、もちろん全くの筋違いである。だが同時に、これだけ将棋に詳しくない方が将棋に物申すようになったのかという嬉しさも私にはあった。
なぜ永瀬は先手番での千日手を受け入れた?
なぜ永瀬は2局目の先手番で得意の角換わりに誘導したのに千日手を受け入れたのか。肝心の本人の弁は次のとおりである。