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藤井聡太“1%→99%大逆転”の一方で「永瀬拓矢の3勝1敗」もありえた…元A級棋士・田丸昇が“八冠獲得”振り返り「4年前の挫折を経て」
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/10/15 11:04
王座戦第4局の感想戦。藤井聡太八冠誕生の戦いを振り返る
ところが永瀬は▲5二飛ではなく、▲6二飛を読んでいて、2図で勝ちになる順を見落としていた。別の手を指した直後にそれに気づいた。ため息をつき、髪をかきむしったり額を殴りつけた。
永瀬は王座戦第3局の終盤で勝ち筋を逃し、第4局でも勝利の寸前に読みに見落としがあった。序盤、中盤、終盤とうまく指しても、最後の仕上げに失敗すると、すべてが水泡に帰してしまうことがある。それが将棋の勝負の怖いところだ。王座戦では、永瀬の3勝1敗という逆の結果もありえた内容だった。
「実力としてまだ足りない」と藤井は語った
藤井七冠は逆転勝ちで王座のタイトルを奪取した。「運も実力」という。何かの見えない力に押されたように、八冠制覇の偉業を成し遂げた。
藤井八冠は終局後の記者会見で、次のように語った。
「今回の王座戦は苦しい将棋が多かったので、実力としてまだ足りないと感じています。八冠の達成はうれしいですが、それをずっと目標にしてきたわけではありません。全冠制覇という点では、羽生先生(善治九段)の記録に並びましたが、羽生先生はその後もトップ棋士として活躍していました。自分も今後は息長く活躍したいと思います。まずは実力をもっとつけ、面白い将棋を指すのが一番の目標です」
藤井は八冠制覇の偉業を達成しても、いつものように謙虚な姿勢である。師匠の杉本昌隆八段も「八冠はゴールではない」と語っている。
“八冠ロスの心配はない”と感じるワケ
藤井は以前に、「強くなることで、盤上で今まで見えてなかった新しい景色があると思うので、それを目指していきたい」「将棋はとても深いゲーム。まだ頂上が見えない点では森林限界の手前」と語り、自身の将棋を表現した。
八冠を制覇した現状でも、「新しい景色」や「頂上」は、まだ見えていない心境のようだ。