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藤井聡太“1%→99%大逆転”の一方で「永瀬拓矢の3勝1敗」もありえた…元A級棋士・田丸昇が“八冠獲得”振り返り「4年前の挫折を経て」

posted2023/10/15 11:04

 
藤井聡太“1%→99%大逆転”の一方で「永瀬拓矢の3勝1敗」もありえた…元A級棋士・田丸昇が“八冠獲得”振り返り「4年前の挫折を経て」<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

王座戦第4局の感想戦。藤井聡太八冠誕生の戦いを振り返る

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田丸昇

田丸昇Noboru Tamaru

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Keiji Ishikawa

 永瀬拓矢王座(31)に藤井聡太七冠(21=竜王・名人・王位・叡王・棋王・王将・棋聖)が挑戦した第71期王座戦五番勝負第4局は、10月11日に京都市「ウェスティン都ホテル京都」で行われ、藤井七冠が逆転勝ちで3勝1敗として、王座のタイトルを奪取した。その結果、史上初の「八冠制覇」を21歳2カ月で達成した。

 王座戦第4局の激闘、今後の展望、藤井の唯一の挫折と立ち直り、羽生善治九段が1996年に「七冠制覇」を達成した当時の状況などについて、順位戦A級在籍経験を持つ田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書は当時】

立会人が対局室に向かった直後に「事件」が

 藤井七冠が永瀬王座を2勝1敗と追い詰めた王座戦第4局。角換わりの将棋になった。過去の両者の対戦では、腰掛け銀の戦型が多かった。その駒組みがまだ整わない23手目の局面で、先手番の永瀬は▲4五桂と跳ねて早期に仕掛けた。前例はなく、永瀬の研究範囲と思われた。藤井も反撃し、盤上で両者の駒が激しく交錯した。

 永瀬はさらに攻め続け、124分の長考で馬を作る展開にした。一方の藤井は竜を作った。中盤では馬の働きの方が勝り、永瀬が少し有利に思えた。しかし、藤井は自陣の竜を受けに利かし、形勢を少しずつ立て直した。やがて機を見て反撃し、終盤で激しい攻め合いが繰り広げられた。

 両者は持ち時間(各5時間)を使い切り、1手60秒の秒読みが続いた。そして、最終盤の局面で永瀬が勝ち筋になった。AI(人工知能)の形勢評価値は《99-1》と圧倒的に勝勢だった。立会人の淡路仁茂九段は、終局が近いと見て控室から対局室に向かった。その直後に「事件」が起きた。永瀬の読みに見落としがあり、別の手を指したことで一気に敗勢に陥ったのだ。

仕上げに失敗すると、すべてが水泡に帰してしまうことが

 1図は、永瀬が読んでいた変化局面の部分図。▲5二飛の王手が正着で、△同玉は▲5三銀△4一玉▲4二金で詰み。△3三玉は、▲5五馬△同角成▲2二銀△2四玉▲5五飛成(2図)で先手の勝ちとなる。先手玉は寄らない形で、後手玉は受けがない。

【次ページ】 「実力としてまだ足りない」と藤井は語った

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