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阪神・参謀が明かす岡田マジックの正体…佐藤輝明に荒療治、大山悠輔には「何も言わないから」「あの降板があったから村上頌樹の活躍が…」
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/10/19 17:01
阪神を18年ぶりのリーグ優勝に導いた岡田彰布監督。“岡田マジック”の正体を投打の参謀・今岡真訪&安藤優也コーチが明かした
沖縄キャンプ初日の2月1日、今岡は大山悠輔に伝えるべきことだけを伝えた。
「ボール球を振っても何も言わないから」
2017年に二軍コーチとして付き添ったルーキーは、主力打者に成長していた。彼の個性を理解し、今の立場を尊重する。もう、多くの言葉は要らなくなっていた。
「去年もボロカス言われていましたよね。インターネットで“チャンスで初球からクソボールばかり振りやがって”と書かれているのを見てきました。大山は初球から振って合わせて行くタイプで、現役時代の僕と似ています」
積極的に振っていいと言われれば、普通なら四球は減るはずである。だが、不思議なことが起こった。なぜか四球の数が増えていった……。
チャンスの時こそ、初球から打ちにいかない勇気を
開幕直前の3月、岡田は球団に掛け合って、四球の査定を上げた。同じ頃、今岡も選手に向けて「打線で相手より1点多く取ってチームで勝ち切る」と話していた。
時には四球で繋ぎ、時にはチーム打撃に徹して勝機を広げる――。かつての師弟が示した岡田野球の指針は、確かな形でナインに浸透していった。
大山はリーグ最多の88四球を選び(成績は優勝した9月14日時点、以下同)、近本光司らも四球数が激増した。両リーグ最多のチーム452四球が得点源になった。71本塁打はリーグ5位で、最多の152発を放った巨人の半数以下。それでも、504得点は巨人を上回ってリーグ1位だった。
岡田が描くビジョンを、今岡らコーチが具体化していく。前回優勝の'05年、今岡は球団歴代最多の147打点で打点王に輝いた。あのシーズンに打席で貫いていた心構えをミーティングで伝えている。
「チャンスの時こそ、初球から打ちにいかない勇気を持つこと」
勝負を決する場面ほど、相手は打者が積極的にスイングしてくるものと思い込む。そこで打ちにいかず、あえて待つ。平然と見送れば相手は「エッ」と意表を突かれる。それが今岡の言う“間合い”であり、一流投手との駆け引きの要諦である。
2ストライクに追い込まれても悠然と
「相手が何を投げても打たれそうな雰囲気を作ることが大切です。それが間合いを引き寄せるということです」
確かにタイガースの主力打者は2ストライクに追い込まれても悠然と構えている。
「大山の四球が増えたのは選球眼がよくなったというより、振りにいかない場面を決めているからだと映ります。大山だけでなく近本も、振ってもいいボール先行のカウントでも振らないケースが目立ちました。彼はここ一番で間合いを計れる打者ですね」