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「選手が金縛りにあったように…」巨人・原辰徳監督が退任後にポツリと漏らした“本音”「この2年半、チームが思うように動かずね」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/10/08 17:11
巨人軍を率いて累計17年、9度のリーグ優勝と3度の日本一に導いた原辰徳監督。今季限りで退任することを決めた
しかもこのチャンスでの弱さは、岡本だけでなくチームの得点圏打率も2割4分1厘とリーグ4位の数字だった。結果的にはその数字が、そのままチーム成績に反映されたと言ってもいいだろう。
「ここぞという試合で勝てない。勝負どころで選手が金縛りにあったように、動けなくなってしまった」
原監督がこう振り返っていたのは、Bクラスに転落した昨シーズン後のことだ。大事なところでなかなか得点できないから、とにかく逆に手堅く得点圏に走者を送る作戦が多くなっていく。
送りバントのサインの意味が変わった
「野球は点取りゲーム」と語る原監督は、もともとバントやエンドランを多用し、ゲームを動かしながら試合の主導権を握る戦術が得意である。
ただその送りバントの意味、特にクリーンアップを打つ主力選手にも度々出された送りバントのサインの意味が、この2年でかなり変わってきてしまったように見えた。
第2次監督時代には当時の主砲だった阿部慎之助捕手に送りバントのサインを出して、周囲をアッと驚かせたことがあった。19年の3度目の監督復帰1年目のシーズンにも、開幕2戦目で2点リードの9回に坂本に送りバントのサインを出している。
もちろんどちらも戦術的に送りバントが選択肢としてあってもいい場面だった。ただ、阿部も坂本も打線の中で最も信頼できる打者であり、そういう中心選手のプライドを考えれば、なかなかバントのサインを選択しづらい選手であり、シチュエーションでもあった。
それでも送らせる。
そこには単純な戦術的決断だけでなく、阿部や坂本に送らせることでチームに発するメッセージがあった。主力選手でもチームが勝つためには送りバントもする。献身を求める。彼らに送りバントのサインを出すことは、どんな言葉よりも、強烈なメッセージがチームに染み渡るものだったのである。
「何かが足りない」原監督の蹉跌
そのメッセージを理解しているから、サインを出された阿部も坂本も一発で決めなければならないという強い思いでバットを寝かせたのである。