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<電撃引退>「クラシックをあきらめていた」牧場主はデアリングタクトを1200万円で落札した…一族34年の悲願「クラシック制覇」を叶えた孝行娘の物語
text by
江面弘也Koya Ezura
photograph bySankei Shimbun
posted2023/10/08 17:02
2020年秋華賞を制覇し、史上初無敗での牝馬三冠を達成したデアリングタクト。岡田牧雄氏がその出会いと岡田家のファミリーヒストリーを振り返る
牧場にきて1週間で20kg近く体重が増えた。筋肉が増え、背丈も伸びた。北海道で鋭気を養ったデアリングタクトはノルマンディーファーム小野町(福島県)を経由し、京都の宇治田原優駿ステーブルで調教され、栗東の杉山厩舎に戻った。栗東で最初の追い切りをしたあと体重は486kgあった。オークスから20kg増えている。杉山は「トレセンでも競馬場でも体重が変わらないのがこの馬の特長」と語っていたが、岡田も20kgを「成長分」だと考えている。
スケジュール面では、岡田はローズステークスを使いたかったが、杉山の判断で直接秋華賞に向かうことになった。
「杉山さんは能力がある。信頼して馬を預けてますよ」
三冠前に語っていた「ほかの馬どうのこうのではない」
そう言う岡田に、秋華賞もライバルは兄の馬になると思うか、と訊ねると、「ほかの馬どうのこうのではない」と言った。
「馬が走る状態になっているか。どこまで成長しているか。それだけです」
岡田兄弟の思いをのせたグランパズドリームがダービーで2着になった年、メジロラモーヌによって“牝馬三冠”という概念が日本に生まれたのだ。あれから34年。デアリングタクトが「無敗の牝馬三冠」という新しい歴史をつくるときがきた。
デアリングタクトDaring Tact
2017年4月15日生まれ。生産は長谷川牧場、馬主はノルマンディーサラブレッドレーシング。エピファネイアの初年度産駒。2020年に史上初となる無敗での牝馬三冠を達成。同年のジャパンCではアーモンドアイ、コントレイルに次ぐ3着に。通算13戦5勝。10月6日、馬主のノルマンディーサラブレッドレーシングから引退が発表される