Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
<電撃引退>「クラシックをあきらめていた」牧場主はデアリングタクトを1200万円で落札した…一族34年の悲願「クラシック制覇」を叶えた孝行娘の物語
posted2023/10/08 17:02
text by
江面弘也Koya Ezura
photograph by
Sankei Shimbun
現役晩年、「もう一つGIを獲らせたい」と思いを込めてレースに送り出していた岡田スタッド代表の岡田牧雄氏。2020年の牝馬三冠達成の直前、岡田氏が「一家の波瀾万丈の歩み」と「三冠への自信」について明かした当時の記事を特別に無料公開します。
※初出は2020年10月8日発売Number1012号掲載 [豪脚娘が狙う三冠]デアリングタクト「一族の夢を乗せて」。経歴・肩書は当時のもの
馬群が直線に向いた。中団のうしろから追い込もうとするデアリングタクトの前には馬が密集している。抜けでるスペースを探し、外へ内へと進路をかえながらようやく見つけた狭い空間を割ってでたのはゴールまであと200mの地点だった。前を行く馬とはまだ3、4馬身の差があったが、そこからは回転の速いピッチ走法で前を追い、あっという間に抜き去った。
5月24日。デアリングタクトは驚異的な瞬発力を見せてオークスを制した。無敗で桜花賞、オークスに勝つのはミスオンワード以来63年ぶりのことだった。
“兄弟決着”となったオークス
デアリングタクトの馬主は「ノルマンディーサラブレッドレーシング」という。北海道新ひだか町静内の岡田スタッド(代表・岡田牧雄)が運営するクラブ法人、いわゆる“一口馬主”である。しかも2着ウインマリリン、3着ウインマイティーはともに、岡田牧雄の兄、岡田繁幸が営むコスモヴューファーム(新冠町)が生産した馬で、馬主の「ウイン」も兄のクラブ法人である。ことしのオークスは岡田兄弟の対決だった。
ところが岡田は2、3着が兄の馬だとゴールするまで知らなかったと言う。
「自分の馬しか見てなかったから。兄の馬と知ったのはレースが終わってからでした」
桜花賞のときは直線に向いてもデアリングタクトはまだ後方にいて、勝てないと思った岡田は、逃げて頑張っていたスマイルカナ(3着)を応援した。これも兄の所有馬だ。しかし、オークスは違った。
自分も勇気をもらいました
「元々、オークス向きだと思っていた馬だからね。能力的にも自信があったし、なにがあっても勝てると思っていました」