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「藤井さんは毒を吸わないんです」永瀬拓矢王座31歳が語った自身の“毒”の正体…「変異種」覚醒の一戦を振り返る《藤井聡太、八冠まであと1勝》 

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高川武将

高川武将Takeyuki Takagawa

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posted2023/10/11 06:00

「藤井さんは毒を吸わないんです」永瀬拓矢王座31歳が語った自身の“毒”の正体…「変異種」覚醒の一戦を振り返る《藤井聡太、八冠まであと1勝》<Number Web> photograph by KYODO

2015年、電王戦FINALに挑んだ永瀬。その圧倒ぶりはいまでも語り草に

 '17年から藤井聡太四冠とVSをしている永瀬は、10歳下の天才に多大な敬意を抱いている。

「藤井さんの横綱のような強さを身につけることが今のテーマですね。本当に藤井さんに引き上げてもらっています」

 今まで、藤井との対戦成績は2勝7敗と大きく負け越している。

――尊敬する気持ちは勝負にマイナスになりませんか。

「全く! 勝負ですから。そういう気持ちが影響する人はプロ棋士に向いてないです。だって、甘さが出て一番痛いのは自分なんで。自分が可哀想じゃないですか。最近見た『NARUTO』の言葉で言えば『自分を信じない奴なんかに努力する価値はない』みたいな」

対藤井戦になると出てくる「毒」

 実はあの電王戦、永瀬に毒は出なかった。

「対ソフト戦だとソフトのセオリーに対応するのが第一で個性が入る余地はなかったんです。ある意味、理想的な将棋でした。ただ、対人、特に対藤井戦になると相手も進化してくるので、こちらも本能のような自我が出てくる。すると毒も出やすい、勝つのが難しい。なので毒を抜きたい、と」

――鈴木九段が言っていました。「永瀬さんが今の努力を続ける限り、藤井さんを追い抜く可能性は十分ある。ただ、30代に入っていつまで続けられるか」と。

「見ものですね!(笑) 今後の課題はモチベーションです。去年、初めてガクンと落ちた時期があって。そのまま王座戦に入って1局目を逆転負けして、2局目にギアを上げられてやっと抜けたんですけど。初めて知りました、モチベーションは下がるんだと。でも一度経験したので、次は対処できます。一日の勉強時間も、今の10時間から12時間に増やしたい。生活面で上手く工夫すればできると思うんですよ」

 年齢を重ねても、棋界トップの練習量を減らすのではなく増やすという……。

 盤上にはその人の生き様が否応なく出てしまうものだ。前回のインタビューで「将棋は生命(せいめい)」と言った男の武器、それはやはり根性だろう。

「自分は痛みを経験してこそ頑張れる。根性って、例えばモチベーションが下がったときに支えてくれる『最後の砦』ですかね。生きていると波があって、昇る時期もあれば下る時期もある。そのときに滑り止めになるものがないと、立ち上がれないくらいの大ケガをしてしまうかもしれない。『自分の心に剣を持て』みたいな、つらいときに支えてくれる自分の心の芯ですよね。

 対藤井戦では自分が先に折れることが多かった。今後は折れずに、折ってやるように。チャンスと見たら放さない。スッポンのように食らいつく(笑)。その気持ちを大事にしていきたいです」

 作らなければいけない名勝負。脳裏に描いているその相手は、藤井しかいない。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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