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W杯表彰式での合意なき口づけ。会長への批判は国境を越えて。
posted2023/09/28 09:00
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Getty Images
南スペインの小さな教会の中で、ひとりの高齢女性が心を決めた。
「死ぬのはかまわない。非人道的で野蛮な批判にさらされている哀れな息子のため、この体が続くまで」
アンヘレス・ベハルはハンガーストライキに入った。教会の外にはメディアが押し寄せ、喧騒の中で生中継で報じた。彼女の息子はルイス・ルビアレス、合意なきキスで世界を敵に回したスペインサッカー連盟の会長だったからだ。
ルビアレスは世界の頂点に立った女子選手の唇に堂々とキスをした。
「あれに性的な意味などない。あったのはただの親愛と友情だ」と語ったが、世論は完全に反ルビアレスに。批判はスペインを焼き尽くし、やがて国境を越え、スキンヘッドの会長は性加害やパワーハラスメントの象徴となった。ルビアレスは謝罪したが政府やFIFAなども絡む大問題となり、最終的には「正義のために」という書面を残し辞任した。