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大谷翔平“手術をしない”選択肢も? 田中将大を靱帯損傷から復活させた「PRP療法」…コーチの決断「これからのマサは全力で投げる必要はない」
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byGetty Images
posted2023/09/04 17:01
現在は打者としての出場を続ける大谷。かつて田中将大は靭帯損傷の際、手術ではなく「PRP療法」を選択した
投手コーチの意見「これからのマサは全力で投げる必要はない」
数週間前、田中は来る日も来る日も炎天下のヤンキースタジアムで走り込みを続けていた。その練習をラリー・ロスチャイルド投手コーチが見守っていた。日本報道陣から“ロスチャ”と呼ばれ親しまれていたベテランコーチは、レイズの前身、タンパベイ・デビルレイズの初代監督を務めた経歴もあった。
そのロスチャとはどういうわけか、ヤンキースタジアムから帰路へ就くSubway(ニューヨーク4番線)で一緒になることが多かった。当時60歳だった彼と50歳の筆者は3人の子を持つ父親であり、米国のとてつもなく高い大学費用を負担する親父として“苦労する”境遇が一致していることが判明。意気投合するようになったある日、地下鉄に揺れながら野球の話をしてくれた。
「これからのマサ(田中)は全力で投げる必要はないと私は思っている。彼の豊富な球種、制球力があれば96、97マイル(約154、156キロ)は要らない。(速球の)アベレージは92、93マイル(約148、150キロ)で十分だ。彼にはその球速でも抑えられる制球力、スライダー、スプリットのクオリティーがある」
「日本の投手は制球力に長けている」
アベレージとして約6キロのダウン。出力を抑えても田中ならば勝てる。野球記者としての本能が頭をもたげストレートに聞いてみた。
「出力ダウンは右肘への負担軽減に繋がる。だからトミー・ジョンでなくPRP療法を選択したのですか?」
白髪で好々爺のような風貌のロスチャは黙っていた。どんな場であっても重要なチーム機密事項は決して口にしないのだろう。たが、彼のその柔和な表情から、質問は的を射ていたと感じることはできた。少し間をおいた後、ロスチャはこんな話をしてくれた。
「(レッドソックスの)上原浩治を見ろ。彼の直球は90マイル(約145キロ)だ。スピードが重要なのではない。直球とフォークボールの制球力が素晴らしい。だから彼は偉大なクローザーなんだ。クロダ(黒田博樹)もそうだが、日本の投手は制球力に長けている。マサならば92、3マイルあれば大丈夫だ」