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「手を出してみぃ!」抜き打ちチェックに野村克也がなぜかニンマリ…「反復練習」「長所を伸ばす教育」は本当に正しい? 名将が語っていた野球界の意識改革
text by
野村克也Katsuya Nomura
photograph byTamon Matsuzono
posted2023/09/23 11:02
自身の野球哲学を常に書き留めていた野村克也氏
打撃でも同じ。バントや逆方向への打撃練習を徹底させると、ボールを長く見る習慣がつく。球を引きつけて強く打てるようになり、選球眼もよくなる。
目的のない練習は、練習とは呼ばない。正しい努力をして、正しい 技術を身につけてほしい。
不振の山﨑武司に野村が伝えたこと
楽天の監督として最終年だった2009年の9月末。試合のない本拠地での練習日に、私はベンチから、外野を黙々と走る山﨑武司を見ていた。
山﨑は当時40歳、この年は39本塁打、107打点を記録して、不惑ながら堂々たる4番バッターだった。チームは球団創設5年目で初のクライマックスシリーズ進出を果たした。ところがAクラス確定を目前に控え、山﨑は20打席以上も安打が出なかった。
「今さら打撃練習なんて、お前ほどの選手がやることもないだろう。 じっくり、汗を流してみたらどうだ?」
「スランプ」の正体は…
西武ドームでの3連戦を終えて、仙台に戻った移動日。ベテランは本来休日だったが、私は山﨑にこう促して、練習を見守った。「スランプになると、自分がちっぽけな存在だと感じる。俺はすごい選手 だ、と思っていたこととのギャップに気づいて、謙虚になる。それが 大事なんだよ」とも話した。スランプとは「つまずきをこじらせた状態」のことだ。
適当に仕事をする人にスランプはない、ともいう。欲張りであれば あるほど生じやすいもののようだ。スランプは軽症のうちに治すのが 一番だが、考え込むのは一番いけない。感覚の迷路に入った状態だから、脱出を図ろうとすればするほど、深みにはまる。