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「小3の藤井聡太くんを大泣きさせた」伊藤匠20歳が竜王戦挑戦者に「その度に自分が情けなく思えたが…」17歳時の予言とは〈滝藤賢一似も話題〉
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2023/08/19 11:00
竜王戦挑戦者へと駆け上がった伊藤匠新七段。藤井聡太竜王との若き才能の対決に注目が集まる
「今期の竜王戦は、自分の実力以上の結果を出せて、勢いでここまで来れました。正直なところ、実力はまだ伴っていないと思っています。タイトル戦は憧れていた舞台で、非常にうれしいです。藤井竜王は将棋界の絶対王者なので、自分としてはぶつかっていくしかなく、番勝負を何とか盛り上げられるように頑張りたいです。常に藤井竜王を追いかけてきたので、自分を引き上げてくれた存在だと思っています」
藤井竜王に伊藤七段が挑戦する竜王戦七番勝負は、10月6日、7日に東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」で開幕する。
藤井は2002年7月19日生まれ。伊藤は同年10月10日生まれ。竜王戦の開幕局の時点で、藤井(21)と伊藤(20)の合計年齢は41歳。実にフレッシュなカードである。なお、過去のタイトル戦年少記録は、1990年の棋聖戦で屋敷伸之棋聖(当時18)に森下卓六段(同24)が挑戦した計42歳だった。
過去は藤井の2勝。棋王戦での対局が凄まじかった
藤井と伊藤の公式戦の対戦成績は、藤井の2勝。1局目はNHK杯戦(2022年9月11日放送)。解説者の渡辺明名人は伊藤について、「いずれタイトル戦に登場する」と高く評価したが、1年後に本当に実現するとは予想しなかっただろう。戦型はともに雁木(がんぎ)で、藤井が寄せ合いを制して勝った。
2局目は棋王戦の敗者復活戦1回戦(2022年11月29日)。負ければともに敗退となる。戦型は角換わり腰掛け銀で、前例のある戦いが続いた。両者は研究範囲なのか、猛烈な早指しで一気に終盤に突入していった。後手番の伊藤が△7九飛と打って相手玉に迫った80手目の局面で、各4時間の持ち時間のうち消費時間は藤井が18分、伊藤は14分。ABEMAの解説者の棋士は「すごくないですか」と驚いていた。
その後、藤井は自玉を中段に逃がし、伊藤の寄せを振り切って危地を脱した。さらに玉が敵陣の5二に入り込み、2二にいる伊藤の玉に▲3二金の王手をかけて寄せ切った。サッカーに例えると、ゴールキーパーがシュートしたような状況となった。
それにしても棋王戦の藤井-伊藤戦は、ともに張り合って凄まじい将棋だった。
両者は言葉には出さないが、「その形は研究済みだ」「こちらにも秘策はあるぜ」「一気に寄せるぞ」「簡単に寄るもんか」などと、同学年のよしみで《ため口》を交わしているようだった。
竜王戦七番勝負でも、棋王戦のようなスリルあふれる将棋を指してほしいものだ。
「藤井を大泣きさせた」ことを本人は記憶してない?
伊藤七段のプロフィールについて紹介しよう。