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「彼らの野球が終わるわけではない」 敗戦で見えた大阪桐蔭“本当の強さ”の正体 今夏のチームに必要だった「ピース」とは? 

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沢井史

沢井史Fumi Sawai

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/08/03 18:18

「彼らの野球が終わるわけではない」 敗戦で見えた大阪桐蔭“本当の強さ”の正体 今夏のチームに必要だった「ピース」とは?<Number Web> photograph by JIJI PRESS

エースで主将の“大黒柱”前田悠伍(左)とキャッチャーの南川幸輝

 前述のように、今年の主将はエースの前田悠伍だった。

 経験値も含め、「チームを見渡せるのは彼しかいない」と指揮官が任命したが、実際、前田は「投手としての準備もする上で、チームのことも気にしないといけない」と、二足のワラジを履きながら奔走した。

 前田がベンチを外れた今春、前田の代わりに主将を務めたのが内野手の笹井知哉だった。今春のセンバツでは主に三塁コーチ。実直な性格と、視野の広さで西谷監督がかねてからリーダーになれると目していた選手だ。プレーヤーとして派手さはなくても、一塁のポジションからの声掛けなどを徹底した。

 夏は前田が主将に復帰するも、投手としてのリーダーは前田、野手のリーダーは笹井という“ダブルキャプテン制”を敷いていた。

 だが、そんな笹井をはじめ、選手間で心のどこかに遠慮があったのかもしれない。

 準決勝の箕面学園戦でも、投手に声を掛けるのは女房役の南川幸輝のみ。三塁手のラマル・ギービン・ラタナヤケは2年生のため率先して声を掛けづらかったとはいえ、毎年大阪桐蔭の試合で見てきた泥臭さ、念の入れ方が淡白だったようにも映った。

ふと思い出した8年前のチームの「記憶」

 閉会式後に設けられたベンチ後ろのスペースでの取材。

 ベンチで堪えていた選手が大泣きするのでは――と思ったが、目を潤ませた選手は多くいたものの、大泣きする選手も少なかったように感じた。

 ふと思い出したのは、15年夏の記憶だ。

 大阪桐蔭は府大会の準々決勝で、大阪偕星学園に2-3で敗れた。当時、エースだった田中誠也(立大→大阪ガス)は、試合後、嗚咽を漏らしながら号泣した。大阪シティ信金スタジアムの外にある通路にしゃがみ込み「甲子園、行きたかったな……」と声をあげながら大泣きしていた。

 昨夏も甲子園の準々決勝で下関国際高に敗れた際、正捕手の松尾汐恩(現・DeNA)は、試合後ベンチから引き上げてオンライン取材が始まっても、パソコン画面前で大粒の涙をこぼしながら取材に応じていた。

【次ページ】 西谷監督「この負けを今後にどう生かしてくれるか」

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