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朝倉未来の衝撃タップアウト負けは「ただただケラモフが強すぎた」…“地味な選手”が大舞台で示した「ハリトーノフ級の危険な闘争本能」とは
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2023/08/05 17:02
一方的な展開で朝倉未来からタップを奪い、RIZINフェザー級王座のベルトを巻いたヴガール・ケラモフ。母国アゼルバイジャンにビッグニュースを届けた
『超RIZIN.2』の会場にも、アゼルバイジャンの国会副議長や在日大使の顔があった。とはいえ、彼らの目的はケラモフやムサエフの応援だけではなかった。朝倉vs.ケラモフに先んじて、アゼルバイジャンの首都バクーでの『RIZIN LANDMARK.7』(11月4日)の開催が発表されたのだ。この大会は同国政府全面協力のもと「チームアゼルバイジャンvs.RIZIN世界選抜」を軸にしており、RIZINにとっては念願の海外初進出となる。
「アゼルバイジャンを訪問したとき、『国としてRIZINを招聘したい』と言われました。国家事業のひとつとして取り組んでいただける。まだどこの格闘技団体も(アゼルバイジャンには)進出していない」(榊原信行CEO)
チャンピオンになって地元凱旋を果たすのか、それとも丸腰で帰国するのかで、ケラモフの立場は天と地ほど変わってくる。しかも、『超RIZIN.2』はアゼルバイジャンにもライブ配信されていた。
「ただただケラモフが強すぎた」
これだけ大きな飴玉をぶら下げられたら、ケラモフもいつも以上にハッスルせざるをえない。フィニッシュはロープ際のチョークだった。「背中がロープについていて、あの体勢から極まることはないと思っていた」と驚く朝倉とは対照的に、ケラモフは「このチャンスを逃してはダメだと思っていました。取りきる自信があった」と発言している。
確かにチョークを極めたときにケラモフは両足で朝倉の足をロックしていなかったが、たとえどんな体勢であろうと、極め切った勝者の言い分がすべて正しくなる。それが勝負の世界の不変の掟なのだ。
知っての通り、朝倉はRIZINの中では最も影響力のあるファイターだ。その朝倉が完敗を喫した余波は大きい。筆者はヴァンダレイ・シウバに一度も勝てなかった桜庭和志の存在を思い出さずにはいられなかったが、この一戦に関する限り、朝倉の敗因云々よりも、ただただケラモフが強すぎたという一点に尽きるような気がした。