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「控えチームが全国3位!?」日本選手権でなぜ“逆転現象”が? 中学野球“二極化問題”の救済策「“控え”という存在が理不尽」の考えは広まるか
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2023/08/06 11:01
昨夏の「日本リトルシニア日本選手権大会」で3位に大躍進した世田谷西多摩川クラブ(写真は2022年)。今年度大会で優勝している強豪・世田谷西リトルシニアのセカンドチームだ
彼らのこうした声に「とても嬉しい」と目尻を下げるのは日本リトルシニア中学硬式野球協会の関係者だ。
中学球界では現在、二極化が進んでいる。首都圏では1学年50人を超えるチームがある一方で、9人を揃えるにもやっと、というチームもあるほど格差が目立つのが現状だ。人気集中の背景には、情報化社会により優れた指導を行う者やチームが分かりやすくなったことや進学塾のように「強豪校に進むこと」を念頭に置いた考えなどがある。
日本リトルシニア協会の三木慶造常務理事と山下二郎事務局長によれば、これまで「人数の少ないチーム」に対する救済策としては、合同チームの結成や人数の多いチームから選手を借りて大会出場できるルールが10年近く前から存在した。ただ、近年の二極化により試合に出られないばかりかベンチにすら入れない選手もかなりの数になってきたため、「人数の多いチーム」への救済策が昨年から取られたのだった。
「一人でも多くの子に“試合”を経験してほしい」
導入にあたっては賛成意見ばかりでは無かったという。二極化するような現象は首都圏では顕著だが、地方に目を移せば所属選手が20人から30人の規模のチームが多い。そうしたチームからすると現実味の無い話であることや、二極化のさらなる進行・全国大会出場機会の減少などを懸念する声もあった。だが原点に立ち返り連盟は決断した。
「1人でも多くの子どもに“試合”を経験してほしいということが僕らの原点。その場を提供することが最大の使命なんです。試合ができないと面白くないですし、“頼んだぞ”と言われた中でプレーすることを意気に感じるのは大人も子どもも同じですから」(山下氏)
1つの組織から複数のチームが出場できることは、すでにボーイズリーグ(日本少年野球連盟)やポニーリーグ(日本ポニーベースボール協会)では認められていたが、中学硬式球界でその輪がさらに広がることになった。
二極化への懸念の声はある一方、市場原理を考えればチームごとの人気の差が出るのは当然であり「子どもや親が入りたいと思うチームに入る」ということは何ら責められることではない。いくつかの連盟やチームの関係者に取材していく中では、「選手数が少ないチームは多いチームから学ぶべき。そこには理由がある」といった辛辣な意見も複数挙がった。それぞれが子どもたちに“選ばれるチーム”を目指していくことは、中学野球の環境をより良くすることに繋がっていくはずだ。