両親や先生、同級生に片っ端からあたっても「真面目でいい奴」という返答の繰り返しで、高校通算58発を放つ大砲に記者目線での面白味はなかった。焦れども収穫はなく、イニングが経過していく。高校野球は展開が早い。すでに7回だったか、こちらを見ている中年男性に気づいた。いで立ちから少年野球関係者と思われる。すがるような思いで、人の波をかき分け視線の主を目指すことにした。

もう時効だから明かします

　その正体は、萩原が野球を始めた小学軟式チームの中野和明監督だった。

「もう時効だから明かします。彼は小学5年で入部してきたんですが、バッティングはずば抜けていました。別の子の名前で登録して6年生の大会で起用すると、いきなり代打サヨナラホームランですよ。さっきみたいな弾丸ライナーで80メートルのフェンスを越えました」

　監督さんに何度も頭を下げ、意気揚々と記者席に戻ったのは試合終盤で、まだスタンドはざわついている。和田がノーヒットノーランを継続中だと初めて知った。

　朝刊1面を飾ることになった和田の原稿は同僚記者に託し、筆者は2面用に萩原の原稿を書いた。納得のいく内容だったが、和田の一世一代の快投を書くことがかなわず担当記者としては複雑な試合となった。大物という立ち居振る舞いの萩原とは対照的に、和田は顔を合わすと向こうから話しかけてくる人懐こい性格。別の試合で達成してくれていたら、と今でも思う。

和田（左）と筆者、日本代表に選ばれた時の記念撮影　©Masashi Yoshioka

甲子園初戦から打線爆発、意外な火付け役は…？

　甲子園での初戦を10-0と、いきなりの打線爆発となったが、これには実は意外な人物が関与していた。

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