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ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥の左ボディジャブは「他の選手と違って痛いんです」…“怪物と最も拳を交えた男”黒田雅之がフルトン戦を分析「絶対に上への布石だと」
posted2023/07/30 11:03
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
「怪物と最も拳を交えた男」の目に、スーパーバンタム級での“衝撃の戴冠”はどう映ったのか。7月25日、井上尚弥がスティーブン・フルトンを圧倒し、8回TKO勝利を収めた。その井上のプロテストの相手役など長らくスパーリングで拳を交えてきたのが、元日本2階級制覇王者の黒田雅之だ。引退から1年。この試合の分岐点とともに、現役時代に体感した「井上尚弥の衝撃」を訊いた。(全2回の1回目/後編へ)
「大橋ジムで見た光景」が再現されたフルトン戦
――まず、なぜ井上はフルトンを圧倒できたと思いますか。
「1ラウンド目から井上選手が距離を支配していました。ジャブと距離で試合を組み立てるフルトンが、一番得意なところで潰された。ボクサーとしては精神的にショックです。井上選手はどの試合を見ても、相手の土俵でも上回る、そういうイメージがありますよね。しきりに『追う井上尚弥』と言っていましたが、ファイターみたいにガンガン追うというのは想像つかない。僕は精神的にプレッシャーをかける意味合いかなと思っていました」
――この展開は予想できましたか?
「ここまでとは思わなかったですが、大橋ジムさんにたくさん出稽古に行かせてもらって、彼が自分よりはるかにフレームの大きい、リーチの長い選手とやっているのを見ていて、割とああいう展開が多かった。自分からグイグイ行くよりも、相手のパンチが届くか、届かないか、ギリギリのところに立って、相手が動き出す瞬間に、先に左を打つんです」
黒田が井上と初めてスパーリングを行ったのは、井上がまだプロデビュー前の2012年5月。以降、2020年10月まで約8年半にわたり、150ラウンド以上も拳を交えてきた。
――以前、大橋ジムで見た闘い方なんですね。
「ずいぶん前に見た光景というか。スーパーフライ、バンタムあたりではああいうスパーを見ていなかった。まだ体の小さかったライトフライ時代に結構見た覚えがあります」