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トスト代表「裁定が覆ることはない」角田裕毅の疑惑のペナルティ裁定にアルファタウリが抗議しなかった理由
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2023/06/07 11:01
今季初めてのシングルフィニッシュが幻となり、茫然自失の体で関係者に見守られる角田
現在、テレビ解説を務める元F1ドライバーたちも、異口同音にこう語る。
「この裁定はフェアではない。なぜなら、ユウキは何も間違いを犯していないのだから。彼は周にスペースを残していた。もし、ユウキが裁かれるのなら、このレースの1周目のマックス(・フェルスタッペン/レッドブル)とカルロス・サインツ(フェラーリ)のバトルを審議しないのか。F1はもう少し変わる必要がある。これではバトルを楽しみにしているファンは納得しないだろう」(フランク・モンタニー)
「私にはあのバトルはレースではよくある光景のひとつにしか見えなかったから、審議されるべき事件だとは考えていない。しかも、レースではイン側に優先権があるというのが私の見解だ。ただし、最近のF1はこうしたバトルを事件として扱う傾向にあることは認識していて『またか』という感じだ。個人的には、こういうF1は私は嫌いだ」(ラルフ・シューマッハ)
ペナルティを妥当と考える声
なぜ角田は5秒ペナルティを科されなければならなかったのか。レース審議委員会はその理由を次のように説明した。
「われわれはビデオと車載カメラの映像による証拠を確認した。24号車(周)は1コーナーの頂点とその前後で前に出ていたため、ドライビングスタンダードガイドラインに基づき、レーススペースを確保する権利があったが、それを妨害された。したがって、われわれは22号車(角田)が24号車をコース外へ追いやったと判断した」
パドックの中にはこの裁定が妥当だと考えている者も少なくない。じつは、角田が所属するアルファタウリのチーム代表を務めるフランツ・トストもそのひとりだ。レース後、アルファタウリはレース審議委員会が下した裁定に対して、抗議する権利があった。しかし、チームはそれを行使しなかった。
「なぜ、抗議しなければならないんだい。抗議したところで、決定が覆ることはない。そもそも、私はあれはユウキのミスだと考えている。彼は56周目までは素晴らしいレースをしていた。しかし、57周目にミスを犯した。それ以上、言うことはない」
その言葉に、レースにおける裁定の難しさとモータースポーツに携わる者たちの苦悩が詰まっているように思えた。