中野たむもまた、ベルトに取りつかれていた

　一方、敗れた白川は会見場で泣き崩れていた。

「悔しい。自分から二冠戦ぶちあげといて、すごいたくさんのファンの人が応援してくれていたのは知っているし、白いベルト取ったばっかりで、希望をつかんだばっか……。つらい。申し訳ないです。中野たむに勝てない。今日も勝てなかった。とにかく申し訳ない気持ちしかない。なんとか頑張って這い上がったら、でっかくなって、頂に立てるっていうのを見せたいんだよ。本当にごめんなさい。次に何をすればいいか、自分のこれからはちょっと考えさせてください」

　会見の席は、白川から中野に変わった。

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「大切な人の、大切なものを奪うことほど苦しいことはないけど、でもこれが私たちのケジメです。未奈はもう、中野たむの後を追うのはやめなよ。白川未奈はさ、コズエン（COSMIC ANGELS）をやめる覚悟でここまでやって、白いベルト巻いて強くなったんだからさ、もう白川未奈の道を行きなよ。それでまた地獄から這い上がってくるのが白川未奈でしょう。待っているよ。次の挑戦者も決まりました。白いベルト、シンデレラ2連覇しているのに史上最高に結果を出せていない選手。なんか、ジュリアとか岩谷麻優に勝っているすごく変なヤツ。若いから白いベルトだけって言っていたけど、でもあっという間に人生なんか終わっちゃうから、欲がないのはプロレスラーにとっては致命的だよ。白川未奈見てみなよ、歩く欲望だよ。MIRAI、人生の修羅場をくぐり抜けてきた中野たむの怖さ、強さを思い知らせてあげましょう」

　中野は赤いベルトだけでも重圧に押しつぶされそうになったという。白も加わって、さらなるプレッシャーが中野を襲うだろう。それでも、二冠王者には確信があった。

「ジュリアがいたから強くなれた。人は夢があるから頑張れる、そして、上に行ける。私も岩谷麻優の下にいた時はここまで行けると思っていなかった。STARSを離れてコズエンとして独立して、ジュリアと出会って、チャンピオンになれた。悔しさや苦しさが原動力になって、人は強くなれる。怖さや不安に襲われる時もある。いろんな人の魂がこもったベルトを巻いているというこの現実を、私は自信に変えるしかない」

　中野もまた、ベルトにとりつかれているように見えた。「引退」や「死」まで意識して、残されたプロレスラーとしてのキャリアをベルトに捧げようとしている。

　最初の頃、筆者も「この娘、大丈夫か」と思った。そのことを中野に伝えると、「みなさん、そう思ったみたいですよ」と笑った。あの中野が赤いベルトを巻き、白いベルトも同時に巻いた。

　そこには肉体的にも精神的にもたくましくなった、強い中野たむがいた。

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