プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
中野たむが「2人分の重荷」を1人で背負うことに? スターダム“赤と白の二冠女王”が選んだ試練…テーマは「残された時間をどう生きるか」
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2023/06/04 17:01
5月27日、大田区総合体育館。中野たむは白川未奈から白いベルトを奪い、岩谷麻優に次いで史上2人目の赤と白の二冠王者になった
「執念や情念というものが、中野たむを変えていった」
まず、MIRAIが白いベルトへの挑戦を表明してきたが、欲張りな挑戦者が現れて2本同時に賭けろと要求してきたとしても、中野は拒まないだろう。
まさか、1本ずつバラバラに1日2試合というような無謀なことはしないだろうが、ほぼ交互に防衛戦を続ける負担はかなり大きいと筆者は思った。
スターダムのエグゼクティブプロデューサーのロッシー小川は、こう考えている。
ADVERTISEMENT
「7月23日から『5★STAR GP』が始まるので、当面はそんなに過酷にはならないんじゃないかな。でも、中野たむが赤白の二冠なんて思ってもいませんでした。彼女が最初スターダムに来た時は、よく『あちこち痛い』って言っていましたから。すぐ辞めちゃうのかなあ、とも思っていました。やっぱり、ジュリアとの出会いが大きかったんでしょうね。執念や情念というものが、中野たむを変えていったんでしょう」
白川戦後、激闘を物語るように中野は顔が腫れて目も開きにくくなっていたが、それでも歓喜の中にいた。
「宇宙のみなさん、中野たむが史上2度目(2人目)の赤白二冠チャンピオンになりました。中野たむを追いかけてきた白川未奈は、中野たむを超えることはできない。これが現実」
白川は「さよなら」という言葉を残してリングを降り、中野も「さよなら」と返した。
すると、2年連続シンデレラトーナメントを優勝したMIRAIが姿を見せて、白いベルトへの挑戦を表明した。
「たむは二冠チャンピオンだよ。白だけでいいの?」
中野が聞き返しても、MIRAIは2本にこだわらなかった。
「欠場前の自分だったら、中野たむが二冠王になったって聞いたら、飛び出てきて『2つ賭けて戦え』って言っていたと思います。でも、今の自分には白いベルトがほしい理由がある。あなたたちみたいに焦ってないので。私はまだ23歳っていう若さがあるので、ひとつひとつ、確実にベルトを手に入れていきたい。魂込めて、中野たむが持っている白いベルトに挑みます」
若さを強調するMIRAIに対して、中野はこう応じる。
「若さか、いいな。でもね、たむはいろんな人生の修羅場を潜り抜けてここにやっとたどり着いたの。MIRAIちゃんなんかね、バブバブの赤ちゃんですよ。あなたに、いろんな挫折を乗り越えてきた人間の強さを思い知らせてあげましょう」
中野はMIRAIの挑戦を快諾したが、自信たっぷりだった。
「若さに代わる才能はないけれど。人生ってね、いつか終わりが来るまで無限に夢を叶え続けられるんだよ。私はこれからいろんなヤツの魂がこもった2つのベルトを背負って、みなさんとスターダムの歴史を作っていきます」