将棋PRESSBACK NUMBER
終局後、渡辺明名人と藤井聡太竜王は苦しそうに言葉を絞り出し…「名人に定跡なし」を体現、現地取材記者が見た“難解すぎる名人戦第2局”
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byNumber Web
posted2023/05/02 17:02
4月28日、第81期名人戦七番勝負の第2局を終え、感想戦を行う渡辺名人と藤井聡太竜王。定跡を外れた難解な将棋に、両者とも頭を悩ませた
スローペースな進行は「嵐の前の静けさ」か…
将棋界には「名人に定跡なし」という言葉がある。
藤井竜王は、誰もが認める最強の挑戦者だ。前例や常識に囚われて、有効な対策が導けるとは限らない。だからこそ、渡辺名人は今回も定跡から外れた土俵での力勝負を仕掛けたのかもしれない。
午後になっても戦いは起きないまま、局面が進んでいく。
両者が攻め筋として水面下で睨んでいたのは、中央突破ではなく、共に右サイド。いわゆる端攻めの筋のようだった。
興味深かったのが両者の角のポジショニングだ。最初は左サイドにいたが、その後は中央の最下段、つまり初期配置で王将がいたエリアに鎮座し、そこから今度は右サイドまで展開していった。端攻めの形を準備しながら、互いの角が持ち場から逆サイドまでポジションを移して、じっと睨みを効かせている。
結局、両者が攻撃の力を蓄え続けた1日目は、本格的な戦いが起こらないままだった。近年のタイトル戦では稀に見るスローペースである。序盤からの感触はどうだったのか。
「後手から速攻を狙われるというような形もあるのかなと思ったので、持久戦にしたんですけど。経験のない形になったので、どういう駒組みにするか難しいと思っていました」(藤井竜王)
「うーん。そうですね。あまり類型がない形だったので、形勢判断は分からなかったですけど……」(渡辺名人)
力勝負に誘導された藤井竜王だけではなく、その作戦に持ち込んだ渡辺名人も、「無理をしている感じはあるかなと思ってやっていました」と明かしている。つまり、どちらも形勢を判断しきれずに進めていたようだった。事実、AIが示す評価値もほぼ互角のままだ。
「嵐の前の静けさ」という慣用句が頭に浮かぶ。駒がぶつかり合う展開にならないまま、藤井竜王が封じ手を行い、1日目は終了となった。
<続く>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。