盤上で起きていた出来事への見解を述べていく藤井竜王の肉声は、かなり近寄らないと聞き取れないほどか細く、小さかった。「経験のない形になったので……」と語る藤井竜王の表情は冴えず、「大きな誤算があった」「苦しい将棋だった」と反省点も口にしている。未知の領域で長時間の思考を求められ続けた、極めて難解な将棋だったのは間違いない。

　正解がわからないまま指し続ける苦しさがあったのは、渡辺名人も同じだった。

　駒組みの構想を尋ねられると「そうですね。序盤は作戦で、はい」と言い、一方で「一局（いい勝負）ぐらいにはなっているかな……という感じだったので」という口ぶりは、決して自信のある展開ではなかったことを感じさせた。そして「本局は中盤でポッキリ折れてしまったので、そのようなことがないようにやっていきたいです」と沈痛な面持ちで反省の弁を述べた。

　言葉を絞り出すように対局を振り返る両者の表情が、今回の将棋の「難しさ」を物語っているようだった。

感想戦を行う渡辺明名人と藤井聡太竜王　©Number Web

渡辺名人の誘導で定跡から外れた将棋に

　この第2局を迎えるにあたって大きな注目を集めていたポイントは、渡辺名人の戦型選択だった。

　藤井竜王の得意戦法といえば、角換わりである。それに対して、緻密な作戦家で知られている渡辺名人が、どういった戦い方を採用していくのか。

　第1局での渡辺名人は「角換わりの展開にはしませんよ」という意思表示をして戦った。藤井竜王の得意戦法を外すだけではなく、定跡も外した力勝負に挑んでいる。

　ただその土俵でも、藤井竜王は鬼神の如き強さを見せた。

　第1局の敗戦から数時間後、渡辺名人が「えぐいよなあ」とツイートして話題になったのは、まだファンの記憶に新しいかもしれない。

4月27日、名人戦第2局対局開始時の様子　©日本将棋連盟

　迎えたこの第2局、渡辺名人は4手目の△4四歩で角交換を拒否した。

　つまり、今回も角換わりではない展開に誘導した。雁木模様から左美濃囲いを進める名人に、カウンターを警戒した竜王は矢倉模様に組んで進めていく。1日目の午前の段階で、早くも過去に前例がない将棋になっていた。

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