ダルビッシュが「投げたくない」と言った試合とは

〈第三ステージ　「中上級者（中堅）」は、プライドを損ねないように心構えをつくる〉

　続いて、第三ステージ。実力はあるが、プロフェッショナルとしての優先順位がまだ完全に理解できていない選手、大雑把な言い方をすると「調子に乗っている」選手、プライドが邪魔をして間違った方向に進んでしまった選手が、このステージの対象者になる。

　かつて、ダルビッシュ選手がファイターズにいたころ、すでにプレーオフ進出が決まっていた最終戦に、誰が投げるかという問題が浮上した。チーム事情としては、その試合に勝つか負けるかで、プレーオフの対戦相手が変わるかもしれない試合だ。

　チームとしては、絶対に勝ちたい試合だった。だから、エースのダルビッシュ選手に登板を打診した。だが、ダルビッシュ選手にはチームに対する不信感があった。チームの成績が決まっていたのに、タイトルを取るためにチームが協力してくれなかったことについて、感情的になっていた。「そんなことなら、僕は投げたくない」と言い出した。

　ダルビッシュ選手の気持ちはよくわかる。それでも、コーチとしてダルビッシュ選手のわだかまりを解き、試合で投げるよう説得に当たった。

「もしおまえが、この先メジャーリーグに行くとしたら、そういうわがままは許されないよ。おまえの気持ちほんまにわかるし、おまえの年齢だったらそういう気持ちになるのもよくわかる。わしもそうやったしな。でもな、本気でメジャーを目指すつもりなら、この態度はとってはいけないことなんやで」

日本ハム時代の吉井コーチとダルビッシュ　©Kyodo News

　僕の話の内容を理解してくれて、そのときは納得してくれた。ところが、翌日になっても、ダルビッシュ選手のモチベーションは上がらなかった。

「やっぱり、僕、投げられません」

　結局、ダルビッシュ選手は投げなかった。

　ダルビッシュ選手は、技術的には何も言うことはない。しかし、ちょっとしたことでモチベーションが落ちてしまっていた。そういう選手をどのように指導するか、それがこのステージの難しい点だ。

実力が確定した相手には、「育成行動」を徹底する

　一軍に定着している若い選手は、しばしばへそを曲げて悪い態度をとることがある。こういうタイプの選手に注意するのは言い方が難しい。選手の主張を受け入れながら説得しないと、一方的な指導ではうまくいかない。

　あのとき、僕が言ったことを、ダルビッシュ選手はメジャーリーグに行って肌で感じていると思う。

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