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プロレス写真記者の眼BACK NUMBER
“壮絶すぎる大流血戦”北斗晶vs神取忍はなぜ伝説になったのか? ロッシー小川が明かす30年目の真実「勝った北斗が試合後に泣いていた」
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2023/04/22 11:05
1993年4月2日に横浜アリーナで行われた北斗晶vs神取忍。女子プロレス史に残る壮絶な流血戦を制した北斗は一気にカリスマへと駆け上がった
大流血した北斗晶は涙「もうプロレスなんて…」
なぜ、北斗晶vs神取忍はあれほど多くのファンを熱狂させ、今も語り継がれる一戦になったのだろうか。
「初対決。見る方も、やる方も、どうなるかわからない。今にして思えば、北斗vs神取はいびつな試合でしたね。試合は北斗の思うようには進まなかった。勝った北斗が試合後に泣いていましたから。神取は自己流のプロレスなんで、噛み合わない。でも、それも含めて迫力があったんだと思いますよ」
壮絶な殴り合い。そして場外戦。神取も流血したが、「これが女子プロレスなのか……」と感じてしまうくらい、北斗の出血量はおびただしいものだった。顔面と髪の毛に赤いペンキでもかぶったかのように、絶え間なく血が流れ落ちていた。傷口は大きく、眉から目じりの近くまで切れていたという。
「試合後、明け方に北斗から電話がかかってきました。『顔にこんな傷ができてしまって、もうプロレスなんてやりたくない』って」
試合の翌日、傷心の北斗が目黒の全女の事務所に姿を現わした。
「マスコミが何人か来ていて、それを見たら急に北斗のスイッチが入っちゃって、傷口の写真を撮らせた。こうして北斗はカリスマになったんです。その年の12月に神取と引退を口にして再戦、次の年(1994年)の北斗は横浜アリーナと日本武道館と東京ドームの3試合しか出なかった。当時の全女で年に3試合しかしないというのは考えられないことでした」
北斗晶というプロレスラーが持つカリスマ性について、小川はこう分析する。
「北斗や長与は、雑誌や新聞の『見出し』になるコメントを言うのがうまかった。普通のことでも、北斗流に工夫してうまくしゃべるんですよ。実際、言葉にするとそれが受けるから、自分でも面白くなってきたんでしょうね。マイクを期待されると、見事に応えちゃうんです」