得点は116.3点。自己ベストの更新だ。シーズンで大会を重ねてきて、たどり着いたシーズンベストの演技に言葉が弾んだ。

「16年前の世界選手権で、ここで初めて銀メダルを取った世界選手権のときも『オペラ座（の怪人）』で、もう絶対にいい思い出にしたいっていう気持ちが強かったです。今回、哉中ちゃんと2人で演技したんですけど、自分にとって最高の演技ができてよかったです」

©Asami Enomoto

フリー前に村元が観た高橋の『オペラ座の怪人』

　高橋が言うと、村元がこう明かした。

「実はフリーを滑る前に、久しぶりに大ちゃんの『オペラ座』を観ようと思って。すごく観たくなって。（映像を観て）16年経って、すごいなって感動していました。幸せな4分間でした」

2007年世界選手権での『オペラ座の怪人』　©Takuya Sugiyama

　当時、村元は14歳。世界選手権の高橋の演技は鮮烈な印象をもたらした。あらためて観返してよみがえった思いもあっただろう。何よりもあのプログラムを同じ東京体育館で一緒に演じる緊張と喜びはフィニッシュ後の動作にうかがえた。

　村元が見せたのは、ファントムの仮面をはぎとるしぐさから両手を広げる動きだった。それは16年前、スピンのあとフィニッシュを迎えた高橋の動作の再現だった。村元からの「オマージュ」に、高橋から思わず笑みが溢れる。

　あのときと違っていたのは、今回は1人の涙ではなく、「2人の笑顔」であったこと。表情は違っていても、どちらも演技をやり尽くした末に見せた表情だった。

揃ってリンクサイドへ引き上げる　©Asami Enomoto

リンクサイドにはあの時と同じく長光歌子コーチがいた

　表情で、身振りで喜びを示しながら2人がリンクを退く。出迎えたのは長光歌子コーチだった。高橋を長年にわたり指導してきたコーチであり、数々の苦楽をともにしてきた。2007年世界選手権でもリンクサイドには長光コーチがいた。

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