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「WBCは意味のないお遊び」批判も…アメリカで“不要論”はなぜ消えた? 大富豪オーナー・大物選手らのWBC論「プエルトリコで殺人が減った」
text by
水次祥子Shoko Mizutsugi
photograph byGetty Images
posted2023/04/13 11:00
WBCでプエルトリコ代表として戦ったメッツの抑え右腕、エドウィン・ディアス。大会中の大ケガで「WBC不要論」が沸き起こったが…
ディアスがケガをした日、コーエン氏は侍ジャパンとイタリア代表の準々決勝が行われる東京ドームにいた。その断トツの資金力で今季終了後にFAとなるエンゼルス大谷翔平の獲得を狙っているといわれており「オオタニの視察か」とも憶測された。
イタリア代表にはマイク・ピアザ監督、マット・ハービー投手という元メッツ選手がおり、試合前の練習中のグラウンドには同オーナーだけでなく元メッツ監督のボビー・バレンタイン氏も姿を見せていた。代表チームの裏方には、長年メッツのトレーナーを務めてきた西尾嘉洋氏も加わっていた。MLBでの仕事を引退した西尾氏は今、名古屋市で治療院を営んでおり、イタリア代表が準々決勝に進出して日本に来ることになった時、急遽呼ばれた。
優勝候補の一角である日本と対するイタリアの選手たちは皆、やる気満々だったという。3回表までは両チーム無得点の緊迫した展開で、やるぞという機運はますます高まっていた。しかしその裏の日本の攻撃、大谷が一死一塁からまさかのセーフティバント。この瞬間、イタリア側のベンチ裏では選手たちが「何だって!?」「やられた!」と声を上げたという。この奇襲がきっかけで、日本はこの回に一気に4点を入れた。
「コーエン氏の見解」と「なぜ日本に?」
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コーエン氏は東京ドームのスタンドで、この試合を楽しそうに観ていた。
スタンドにいるその姿が試合のテレビ中継中に映し出され、米国のメディア関係者や野球ファンがざわついた。笑顔を見せるオーナーに対して「あなたの大事なディアスが大ケガをしましたよ。そんなところで何をしているのですか」という声がSNSに上がっていた。
コーエン氏がツイッターを更新したのは、その翌日だった。
「エドウィン・ディアスは素晴らしい人間であり、闘争心あふれる競技者だ。我々球団の全員が動揺したが、今シーズンを素晴らしいものにするという目標は、何も変わらない。エドウィンの早期回復を祈っている」
ただその言葉だけだった。そこには、大事な選手を失ったことに対する恨み節もWBCに対する批判も一切なかった。
MLBのシーズンが開幕してからしばらくして、コーエン氏は米大物記者のケン・ローゼンタール氏に日本で試合観戦をした理由を語っている。