ゴルフPRESSBACK NUMBER
人種差別を乗り越えたタイガー・ウッズ、乳がんの妻に捧げたミケルソン、松山英樹とキャディの絆…マスターズ名勝負のウラにある“愛の物語”とは?
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byReuters/AFLO
posted2023/04/06 11:00
松山英樹がアジア人で初めて制覇したマスターズはもう2年前の話。日本時間4月6日夜に開幕する今大会ではどんな物語が生まれるか
アリゾナ州立大学在学中にPGAツアーで初優勝を挙げたミケルソンは、プロ入り後も勝利を重ね、「メジャー優勝は時間の問題」と言われていた。だが、どうしてだかメジャー大会では勝てそうで勝てないことを繰り返し、「メジャー・タイトル無きグッドプレーヤー」と呼ばれ続けていた。ウッズと競り合って惜敗したことも、もちろんあった。
しかし、2004年マスターズの最終日、72ホール目で6メートルのウィニングパットを沈めたミケルソンは、その瞬間、万歳をするかのように両腕を上げながらグリーン上で飛び上がり、マスターズ初優勝、メジャー初優勝の喜びを噛み締めた。
数十秒後、ミケルソンは娘を抱き上げ、頬を紅潮させながら、こう叫んだ。
「ダディ(お父さん)は勝ったぞ。信じられるか? ダディは勝ったんだぞ」
あの場面は「マスターズの歴史に残る名シーン」と評された。
闘病中の妻を抱きしめたミケルソン
マスターズ初優勝までに時間がかかったミケルソンは2006年に再びオーガスタ・ナショナルで勝利を挙げて、2010年には3度目のマスターズ優勝を成し遂げた。
しかし、その3勝目は、ミケルソンが自分自身のためではなく、乳がんと闘病中だった愛妻エイミーのために勝ち取った勝利だった。
ウィニングパットを沈めたミケルソンは、18番グリーンの奥に弱々しい姿で立っていたエイミーに歩み寄り、彼女を優しく抱きしめた。涙を流しながら交わされた2人の熱いキスシーンを、オーガスタ・ナショナルのパトロンたちも世界中のゴルフファンも、みなもらい泣きしながら静かに見守った。
あの場面は、マスターズの戦いを通してミケルソンと彼の家族の愛情を世界が共有し、共感した忘れがたき名シーンだった。