ブンデス・フットボール紀行BACK NUMBER
W杯落選翌日に「次のW杯に35歳の俺が立つの、面白くない?」原口元気の心は燃え続ける…ブンデス上位→残留争い電撃移籍での“究極の献身”
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2023/04/03 17:01
日本代表3月シリーズでは招集されなかったが、原口元気のハートは未だ燃え続けている
「彼はコミュニケーションを積極的に取る。大声を出すわけではないが、しっかり意見を言うし、チームメイトに『こうすれば良い』などとアドバイスもする。監督からの指示をチームメイトに伝えることもある。我々にとって、彼はとてもポジティブな補強だったと思っている」
今のシュツットガルトは3バックと4バックを併用しているが、ラッバディア監督はチームキャプテンの遠藤航と共に原口をインサイドハーフのポジションで先発起用している。インサイドハーフはウニオン時代に任された、原口にとって慣れ親しんだポジションでもある。しかしシュツットガルトの原口は、ウニオン時代とは全く異なるプレーアクションで味方チーム全体にダイナミズムを生む。
1部残留を果たすことに意義を感じている
相手陣内バイタルエリアで果敢にボールを要求する。当然相手は原口に強烈なチャージをかますが、一切怯まない。勝負局面を生み出すために体を張ってボールキープし、ときにドリブルで侵入し、ときには相手チャージをまともに浴びながらもファウルを獲得し、貴重なFKを得る。チームが劣勢に陥っても、原口にボールを預ければ突破網を見出してくれる。日常とピッチの絶え間ないコミュニケーションを経て、チームメイトは僅かな期間で原口を信任した。独善的な振る舞いは一切無く、フォア・ザ・チームの精神を伝播させる彼の所作は残留争いを強いられるチームの中で一筋の寄る辺となっている。
「確かに今のシュツットガルトは厳しい立場にある。ウニオンとの違いに愕然とすることもあるよ。ただね。だからこそ、今のシュツットガルトには自分の力が必要だとも思っている。ウニオンでリーグ優勝を争うことと同じくらい、このチームで1部残留を果たすことに意義を感じている」
日本でプレーしていた時代、または20代の原口を知る者ならば隔絶の感があるかもしれないが、これが31歳の彼の実像だ。新たなる境地に達した彼は今、新たなる夢を思い描き、その目標へと邁進している。
ねえ、知ってた? 次のワールドカップって…
カタールワールドカップの日本代表から落選した翌日、おそらく絶望の淵で泣き明かした後に、筆者の元へ一言だけメッセージが来た。
そこにはこんな言葉が記されていた。
「ねえ、知ってた? 次のワールドカップって、3年半後にあるんだって。そのワールドカップの舞台に35歳の俺が立つのって、面白いと思わない?」
思慮深く、真摯で、献身的なプレーヤーへと変貌した原口元気が未来を切り拓く。高尚で意義深い彼の冒険は、未だ道の途上にある。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。