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相手セカンドが困惑「えっ、セーフ?」大学生・周東佑京、セカンドゴロが余裕でヒットの“伝説”…WBCで世界が驚いたスピードスターの原点
posted2023/03/31 17:25
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
JIJI PRESS
WBC準決勝、サヨナラの場面で、ピンチランナーの一塁ベースから一気に生還した時の周東佑京の走りには、溜まりに溜まったエネルギーを、この数秒の間に爆発させてやろうとする男の凄みが発散されていた。
三塁ベースを蹴って、前を行く大谷翔平に激突するんじゃないかと、ワッと思わず、声が出たほどだった。
衝撃の「3.72秒」
スピードスターとして「速さ」が報じられがちな周東佑京だが、その10代の頃を思い返すと速さはもちろんのこと、それ以上に見とれるような美しい走りをする選手だった。
だからこそ10年も前の、たった1試合だけのことも、去年の出来事のように鮮やかな記憶が残っているのだろう。
スコアカードを探してみたら、2013年の4月20日。
春の群馬県大会、場所は高崎からさらに信越本線で軽井沢のほうに入った安中(あんなか)の球場だった。
その時のお目当てが誰だったのか思い出せないが、この日の2試合で覚えているのは、東京農大二高の周東佑京遊撃手ただ一人だけ。走る姿が衝撃的だった。
最初の打席の二塁ゴロで、左打席から一塁を駆け抜けるタイムが「3.72」と出て、まずギョッとした。左打者なら3秒9で「快足」と評される。それが、3秒72というから驚いた。スイングしてからスタートに移る一瞬の切り換えの速さが、強烈な印象として残った。
そして、次の4番打者の左中間突破の打球で、二塁、三塁を蹴って生還したその走りの速いこと、速いこと。